私は小学校高学年のときにいじめをしていた。いじめといっても、ものを意図的に壊したり、隠したりとか、暴力を振るっていたわけではない。ただ、そのいじめグループでいるときには標的の子にあまり関わらないようにしたり、陰口を言い合っては笑っていたりした。陰湿ないじめだ。

二つの顔を持つ私

Aさんは私の保育園からの幼馴染だった。絵を描くのがうまく、明るい性格で人から嫌われるような人ではなかった。私も保育園の頃から仲良くしており、よく遊びに行っていた。
ある日、私はある友人との何気ない会話からいじめグループに入ることになった。その友人はAさんとよく一緒にいるのを見かけていたが、いつからか別行動をするようになっていた。「最近Aさんとあんまり一緒にいないね」と私が何気なしに聞くと、「Aさんって太ってるし、きもくない?」と返されてしまった。私も昔と見た目が変化していることは少し気になっていた。太い淵の眼鏡、丸い顔、少し太った体型。クラスのおしゃれな子たちとは似たような見た目ではなかった。
当時私は人間関係について深いことは何一つ考えてなかった。ただ、誰かに同調していればなんとかなると思っていたところがあった。そのため、「確かにそう思う」と安易に答えてしまった。そこから私はAさんの陰口を言うようになった。

本人に直接言わず、陰口を言って楽しんでいる、というだけでもかなりずるい奴なのに、私はさらにずるい奴だった。当時、クラスにはほかにも仲が良いグループがあったのだが、私はそこでAさんとよく遊んでいたし、仲良くしていたのだ。あるグループではAさんの悪口を言い、また別のグループではAさんと仲良くする。特に意識してそうしていたわけではなかったのだが、2つの顔を使い分けることで自分の評価を守りつつ、罪悪感というものを感じないようにしていたのかもしれない。本当にずるい奴だと思う。

こんな私を信頼してくれていた。私は彼女をいじめていたのに

小学校卒業後はいじめグループの人たちとは別の中学へ進み、中学校では自然とAさんへのいじめはなくなった。部活動ではAさんと同じ運動系の部活に入ることになった。その部は私の地域では厳しいことで有名な部活だった。私はAさんがその部活に入ることを知らなかったため、入ることを聞いたときはかなり驚いた。Aさんは運動を積極的にするようなタイプではなかったからである。
入部当時、なぜその部活に決めたのかを聞くと、いかにも当たり前、という感じで、「あなたが入るから」と話した。とにかく驚いた。そんな理由だけで、この厳しいと噂の部活に入るのか。そもそも私は仲良くしていたとはいえ、陰口をずっと言って笑っていた奴だったのに。さまざまなことが頭のなかをめぐり、「そっか」としか言えなかった。小学生の頃に見ないふりをしていた罪悪感が一気に流れ出した感覚だった。Aさんに隠れていじめをしていたが、Aさんも自分が悪い意味で笑われているということを知っていたのではないかと思う。それなのに私のことを信頼してくれていた、ということに申し訳なさというより、自分がとても情けなく、自分が小さく思えた。

今年の成人式、久しぶりにAさんと再会すると、誰もAさんとは気づかないほど変わっていた。ほっそりとした体型、真っ白な肌、ばっちりメイク、かわいらしい髪型。メガネは外してコンタクトになっていた。私が見た目だけでいじめをしていたあのAさんはどこにもいなかった。Aさんは相変わらず私に明るく話しかけてくれた。Aさんについて自分で発した言葉が私を悪い方に誘ったが、その私を軌道修正してくれたのはAさん自身の言葉だった。他人の価値観に流されていじめをしながらも、また保身のために八方美人になっていた小学生の私。今の私はもう言いたいことは正面から言う。八方美人もやめた。Aさんの一言で私は変わることができた。