私は母方の実家では初孫として生まれたためか、幼い頃からそれはそれは可愛がられた。
蝶よ花よと育てられ、まさに家族の中心だった。
妹が生まれるまでの4年間、家族と親戚の愛情を一身に受けて育った私は、随分と自己愛の強い子供になった。
「お姉ちゃん」だからこそ、妹より優れていると勝手に思っていた
自己愛、というか、謎の自信に満ち溢れた子供だった。例えば、なんの根拠もないけど自分は頭が良い方だと思っていたし、自分はものすごく「可愛い」人間なんだと信じていた。その自信は妹が生まれて家族みんなの関心が妹へ移ったときも変わらなかった。
むしろ、「お姉ちゃん」だからこそ、妹より優れていると勝手に思っていた。
私は小学5年生から中学2年生までずっと同じ人を好きだった。
中学1年生の時、その人から電話で告白され、その翌日遊ぶ約束をしたことがある。
私はその時人生で一番ドキドキしていたし、初めて両思いだった。
正直、どんな顔をして会えばいいのか分からず、電話をしている時も、切ってからもずっとドキドキしっぱなしで、心臓が壊れてしまうのではと思ったほどだった。
会いたいけれど、会いたくない。
そんなふうに思っているうちに、あっという間に翌日になり、彼とその友達が家に来た。
私はもうパニック状態だった。どのくらい焦っていたかというと、焦りのあまり2時間前からやっていた準備が一向に終わらず、彼を10分ほど家の前で待たせるほどだった。その事実がさらに私を焦らせたが、その間、妹が何やら外で相手をしていてくれたらしかった。彼とその友達には妹と年の近い兄弟がいて、妹のこともよく知っていたからだ。
ようやく準備が終わり外に出ると、彼がはにかんで、挨拶をしてくれた2人の間に流れる明らかにぎこちない空気がなんともむずがゆく、心地よかった。
もちろん、家族には友達と遊ぶとだけ伝えて、家を後にし、近くの公園で遊んだ。
理解に10秒近くかかった妹の言葉。妹を劣った存在だと思っていた
帰りは彼が家まで送ってくれた。彼と友達が帰ったあと、私は居間で痺れるような余韻に呆けていた。
これからどういうことになるのだろう、両思いの先には何が待っているのだろう、もしかしてこのままずっと付き合ったら結婚できるんだろうか、など飛躍したことを色々と考えふわふわした気持ちでソファに座っていた。
すると、部屋へ入ってきた妹がなんとなしに言った。
「なんかねー、妹の方が可愛くね?って言ってた」
その言葉を理解するのに10秒近くかかった。
衝撃的すぎてその時妹に何と答えたかは忘れたが、怖くて彼とその友達、どっちが言ったのか、はたまた二人の総意なのかは聞けなかった。そう言ったっきりすぐに妹は別の話を始めた。妹は自慢のつもりでも、私に何か悪意があって言ったわけでもない、ということがわかってより辛かったことを覚えている。
今思えば笑ってしまうのだが、私はその時まで自分のことを真から可愛いと思っていて、他人もそれに同意なのだと考えていた。もちろん、学校には可愛い子はたくさんいるけれど、きっと顔立ちと勉強面やら性格やらを総合的に判断したら私はきっと同率1位になれる可愛さだ、と思っていたのだ。それが可愛いクラスメイトならいざ知らず、妹の方が自分より優れていると言われたことに衝撃を受け、そこで自分が今まで妹を劣った存在だと思っていたことに気づいた。
誰かと比べて落ち込んだり、誰かより優れようとする必要がなくなった
その言葉はしばらく私の頭の中に居座り、なにをするにも自信をなくさせた。
しかし、ある時からその言葉は私の持ち前の謎の自信と相まって、不思議な勇気をくれるようになった。いや、勇気なんて綺麗なものではなく、なんというか、やけくそで投げやりな自己肯定とでも言おうか。
「私は彼の目から見たら妹より可愛くないかもしれないけど、私から見れば私が一番可愛いな」という肯定感だ。
そう思うと、誰かと比べて落ち込んだり、無理やり誰かより優れようとする必要がなくなった。
私と妹は違う生き物だけど、他人は勝手に比べたり、判断したりする。でも、それは他人の判断であって、私や妹には関係ない。
もちろん、不意に人の優れた面ばかり見えて自分が嫌いになることはある。
それでも、私の中ではいつも私が1番だ。
あの一言が、私をそう思えるようにしたのだと思う。
ちなみに今でも妹とは仲がいいし、妹はとても可愛い。もちろん私も可愛い。