小学校の卒業式で耳にしてしまった、自意識を変える言葉

私がデブを自覚したのは、小学校の卒業式だった。
当時AKB48が流行っていて、ほとんどの女子が赤や青や緑のチェックのミニスカートを穿いていた。
出席番号順に並んで入場を待っているとき、私より10人ほど後ろだっただろうか、「脚、太いな」と言う男子の声が聞こえてきた。
「〇〇だって、同じくらい太いじゃん」と女子が言い返す。男子は黙り込んだ。
その〇〇こそ、私の名前だった。思わず振り向きかけた体を前に戻し、体育館の中を窺う。
しばらくして、私たちは拍手に包まれる体育館に入場した。こうして小学校の卒業は、私にとってデブの始まりとなった。

デブの呪縛にとらわれていた自分

それからは、ファミレスでたらこスパゲッティが食べたくても、キノコ雑炊を選んだ。
朝食は、いつも茶わんに半盛りだけ。あの期間限定フラペチーノなんて、一度しか飲んだことがない。
こんなに努力していても、体重は律儀に毎年1キロずつ増える。ちなみに身長は、中学1年生ときに3センチ伸びてから全く変わっていない。

我慢し続けてきた結果が、先日あらわれた。友だちに「好きな食べ物なに?」と聞かれたときのこと。アイスブレイクでは定番の質問なのに、私は答えられなかった。
好きな食べ物が何も思いつかなかった。

──私の好きな食べ物ってなんだ?

太らないようにカロリーが低いものを食べなきゃ、と考えてきた挙句の果て、“食べたいもの”はあっても“好きな食べ物”がなくなっていたのだ。

──私、なんで痩せたいんだっけ?

好きな食べ物を考えているうちに、こんな疑問にたどり着いた。私は答える。

──愛されたいから。
──誰に?
──自分。あと、まだ見ぬ彼氏!

ここまで来て気づいた。私は自分をデブとみなし、心のどこかで、痩せないと誰かに愛してもらえないと思っていた。
体重が増えれば自分が嫌いになり、減れば自尊心が高まった。体重を自己肯定感の秤に使っていたのだ。

でも、思い返してみると、友だちにもこれまでの彼氏にも「太ってるね」「痩せたほうがいいんじゃない」なんて言われたことがない。小学校の卒業式で黙り込んだ、あの男子にも。
むしろ、授業で同じグループになって放課後に課題の動画を撮ったなぁとか、休みの日に自転車に乗って遠くの公園まで行ったなぁとか、仲良しだった思い出が溢れてきた。

──意外と私ってデブじゃないのかな。

恥ずかしさを捨てて、心いっぱい踊りたい

小学校を卒業して10年。そして、デブになって10年。私は痩せなくてもいいかなと思うようになった。
このままでいい。これまでだって十分愛されてきたから、きっとこれからも誰かが私を愛してくれる。そんな気がする。だから、私は私の“デブ呪縛”を解き放ちたい。

そんな折、サンバダンサーの経験を思い出した。
羽を背負って、露出度の高い衣装を着て踊るあれだ。
私は初心者だったので、お腹がチラ見えするくらいの長さに裾を切ったTシャツと、ふわふわのパニエを穿いた超ミニスカートで踊った。振りは練習してきたから心配なかった。
ただ、体形を晒すのが嫌で恥ずかしくてたまらなかった。
しかし、ステージに立ってライトを浴びると、まず恥ずかしさが飛び去った。
そして、太ってるとか、可愛くないとか、悩んでいたことが全部忘れ去られた。観衆に投げキスしながら、私は20分も踊り続けたのだった。
あの感覚をもう一回味わいたくなり、コロナが治まったら本格的に踊ってみようかなぁと、最近思っている。