今日の結婚式は良い結婚式だった。

仲の良い大学の先輩の結婚式で、挙式から参列した。転勤先が偶然重なり、大学卒業後も仲良くしていた先輩だった。

私は、この先輩の同級生と付き合っていた。2人で招待を受けていたので、一緒に式に参列した。

7年付き合った彼と私の心は、少しずつ合わなくなっていた

私たちは、7年も付き合っていて、お互い結婚適齢期。周りからも「そろそろじゃない?」と言われるようになっていた。私は結婚願望が強いわけじゃなかったが、ないわけでもなかった。いつかできたらと思っていた。2人で参加すれば、結婚の意識も高まると思っていた。だが、現実は違うものだった。

実をいうと、私の心はだいぶ前から離れていた。社会人になり仕事に追われ、自力で生きていくことを覚えると、彼に対する大学の時に抱いていた先輩への憧れやかっこよさなど、とうの昔になくなった。

それどころか魅力だと思ってたのに、悪いところにさえ見えてしまっていた。最近は相手への興味もなくなり、休日も会う努力もしない。別に会ったところで、楽しいことがあるわけでもないと知っているからだ。

彼が悪いわけじゃない。何かが変わったわけでもない。なぜか、合わなくなった。少しずつ何かがずれていった。そのうち修復不可能な溝になっていった。

彼との未来を考えると、私に「迷いと不安」が押し寄せてきた

結婚式が進むにつれて、自分の結婚なんて考えられなくなった。この人と結婚して幸せになれるのか? これ以上付き合っても昔のようには笑えないだろう。だからといって、別れるなんて言えるのか? これから先、これ以上大切にしてくれる人が現れるだろうか? 長い間付き合ったのに裏切りじゃないか? と色々な考えが式の最中によぎった。

今まで迷いと不安が押し寄せて、なかなか別れを決心することが出来なかった。でも、先輩の素敵な結婚式を前にして、あの幸せな笑顔を目の当たりにして、今の私はできないと確信し別れることを決心した。

結婚式のあと、酔ってほてった体を醒ますために2人で街を散歩した。別れを切り出そう、と何度も思ったが「別れよう」の一言が口に出せずにしばらく歩いた。綺麗な夜景などまったく目に入らなかった。邪魔とさえ思った。

ベンチに腰掛け、無言の時間が続いた。だんだん空気が鉛のようになっていく。はやく、今しかないと思って、勇気をだして声に出してみた。

「別れよう」と。次に来る言葉がどんなものかで、また気持ちが再燃するかもと少し期待していた。少し間を置いて、彼は「そうだと思った」と言った。その瞬間、体が一気に軽くなった。これ以上無理だと思ったのは、自分だけじゃなかったんだ。

「でも…」と続けて彼の言葉は続いたが、私の耳には入らなかった。

悲しいだけじゃない。私は「別れ」で前向きに考えられるようになった

明日から、自分を大切にして過ごそう、何か新しく始めてみようか、仕事ももう少し頑張ってみよう。その瞬間、色々なことが前向き考えられるようになった。

別れを告げただけで、こんなにも自分に力を与えてくれるものだと思ってなかった。頼れる存在だと思っていたのに、いつのまにか足かせのような存在になってしまっていた。私の中でそんなふうにしてしまって、申し訳ない気持ちと開放感が入り混じっていた。

都会の空気が、まるで草原にいるかのような心地いい風に変わった。明日から新しい自分になろう。

この日の結婚式は、間違いなく人生を変える結婚式だった。良い結婚式だった。