24歳の終わり、人生で初めての告白をした。告白と言っても「付き合って下さい」の方ではなくて、「別れたくない」の意味の告白だった。これまでお付き合いした人がいなかったわけではないけれど、それほど相手に固執したことはなく、案外すんなり別れ話も受け入れてきた。

私と並ぶと見劣りしてしまうから、彼自身がB級男子と名乗っていた

けれど今回は違った。その最大の理由に、彼が「B級男子」だったことが挙げられる。人は見た目が100%なんて言葉が世の中に出回るくらい、見た目の良し悪しで態度を変える人が多い世の中。友人の彼氏を見たいとせがんでおきながら、イメージとかけ離れていた場合は「優しそうな人だね」なんて当たり障りない言葉で感想を述べ、この話題は終しまい、なんてのがよくある日常。

昔から周囲の人には「かわいいね」と言われてきた私は、大学でも自分から志願してミスコンに出場するほど自信にあふれていた。実際、寄ってくる男は良、不良含めて絶えなかったし、いつだってご飯に誘ってくれる男性が近くにいた。それでもあまり交際に発展させてこなかったのは、いいなと思っても心がときめく男性に出会えなかったこと、適当に付き合って好きになれなかった時、相手を傷つけてしまうことを考えると、おいそれと交際に持ち込む勇気が出せなかったからだ。そんな高嶺の花状態の私の心を動かす出会いがあった。それが後に私を絶望の底へ叩き落す「B級男子」との出会いだ。

B級男子は私の知らない世界をたくさん見せてくれた。失礼だけど、B級男子と述べておきながら彼の見た目は至って平凡。だけど私と並ぶと見劣りしてしまうという点から彼自身がB級男子と名乗っていたのだ。しかし彼には、見た目以外に彼をマイナスにする要素は一切なかった。いつだってごく自然に私の心を揺さぶって、警戒心の塊だった私の壁を少しずつ取り除いてくれて、彼といると自然体の自分でいられた。その魅力が、私の目に映る彼をA級、いやそれ以上に引き上げていたのかもしれない。私はあっという間に、恋は盲目という沼にはまってしまったのだ。何もかもが順調で、頭の中は彼でいっぱい。それでも恋する女という生き物はどういうわけか、胸いっぱいの幸せと同時に、妙な不安や自分勝手な被害妄想に襲われてしまうものだ。女の勘という能力は時にやっかいな代物だ。

彼の気持ちを試すためにSNSで間接的な嫌がらせを始めてしまった

付き合ってから3カ月が過ぎたあたりから彼の仕事が忙しくなり、すれ違う生活が続くようになった。以前なら特に気にも留めなかったのに、しばらく返信がないことに勝手に不安になってしまい、(今思うとやめておけばいいのに)彼の気持ちを試すためにSNSを使った間接的な嫌がらせを始めてしまった。世間一般に言う、これが“匂わせ”ってやつ。まさかB級男子に限って浮気はない、単に仕事が忙しいだけだ、頭ではちゃんと分かっているのに気持ちがどうもついていかない。周りの女友達に相談するも、返ってくる言葉は前向きなものから辛辣なものまで様々。こんな時、素直に前向きなアドバイスだけを受け取っておけばいいのに、病み始めた女の思考回路は正常とは程遠い。ますます負のスパイラルに陥っていくそんな私の変化に気づき始めたのか、彼との関係には少しずつ隙間ができるようになっていった。

いつしか私は、周囲がチヤホヤしてくれる状況に天狗になってしまい、自分は絶対に振られないと思い込んでしまっていたようだ。表向きには「全然可愛くないよ」なんて言いながらも、自分は見た目に恵まれているなんて思うこともあった。それなのに、ある日突然B級男子はあっさりと私の元を去った。しかも、泣きじゃくる私を前にしてもなお、「君との未来が見えない。一緒にいられない。可愛くてもダメ」なんて追い打ちをかける言葉まで浴びせてきた。絶句する私を見た彼は最後には「きっとこんな自分には勿体ないくらいの人を振るなんて俺は最低だと思うし、いつか今日のことを後悔するんだろうな」なんて慰めのような言葉まで残すから、私のプライドはますます傷ついた。それからの私の毎日は絵にかいたような地獄絵図。職場での急な人事異動も重なり、辛いという言葉だけでは言い表せない日々が続いた。

絶望から這い上がろうともがき苦しんだ日々が教えてくれたもの

だけど時間というものは不思議なもので、確実に私の傷を癒していった。いつまでも続くと思っていた苦しみは徐々に薄れ、仕事での出世に向けて資格取得の勉強を始めた。自分の弱さ、甘えに向き合う時間が沢山あった。絶望から這い上がろうともがき苦しんだ日々は、今まで私が経験してこなかった感情を教えてくれた。悲しい時に寄り添ってくれる友達の温もりに触れた時の嬉しさとか、同じ痛みを抱える人の苦しみに共感する心とか、毎日のご飯が美味しいと思える幸せとか、何もせず過ごしていた時間の尊さとか、誰かに気を遣って生きることの難しさとか。別れ、絶望、異動、奮闘、再起、希望、実りの多い2020年だったけど、B級男子との別れは私にとって人生最高の転機となった。

今の私が世の中の恋する女子に伝えたいことは、好きな人の気持ちを決して試さないこと、そして自分を信じない女の元からはどんな男でも去っていくということ。それがどれほど自分の事を好いてくれている相手だったとしても、B級男子だったとしても、自分を信じようとしない人間には誰もが背中を向けてしまう。後から友達に聞いた話だけど、彼は本当に仕事が忙しかったようで、そしてちゃんと私のことを好きでいてくれたんだって。彼が別れを選んだ理由も、自分が大変な時に私の自分勝手な行動に嫌気がさしたからなんだって。そしてもう一つ、絶対的な自信やプライドは捨てること。自分はすごい、何でも出来ると思っているうちは何の成長も得られないよ。

そういえばこの間、偶然仕事でB級男子に再会した。およそ1年ぶり。動揺してよそよそしくなる私とは違い、彼は自然に微笑んでくれた。そして一言、「綺麗になったね」と、あの頃と変わらない口調で言った。顔面に一気に血が巡るのを感じながら必死で笑顔を作った私。これは参った。まだまだB級男子には敵わない。だけどそれでいい。いつかまた彼が振り向いてくれると信じて進むこと、それが私を輝かせる最大の方法なのだと分かったから。あの時B級男子に振られて良かったと今なら本気で思える。