自然と母親の味方になった私。お父さんの人柄=母が愚痴る欠点に

お父さんのことをよく知らない。
幼い頃亡くなったとか、親が離婚したわけではないけれど、お父さんの性格とか、漠然とどんな人なのかがよくわからない。

小学校高学年くらいから親の夫婦関係が悪くなって、娘である自分は自然と母親の味方をするようになった。当時わたしは、母親の父に対する愚痴の聞き役だったから、わたしの思うお父さんの人柄=母が愚痴る父の欠点、になってしまった。

ギャンブルに依存したり風俗通いがバレたり、いつまでも自分の親から精神的に自立できなかったり、たしかに今考えても父親として、金銭面以外になにか父親の役割を果たしてくれたかと考えると、申し訳ないけれど何も浮かばない。生まれたばかりの頃はたくさん遊んでくれていたと、実家にあるレトロなフィルム写真からわかるけれど、自分の中に父から受けた愛情は残念ながらもう残っていない。

わたしがお父さんに伝えたいことは、「わたしはお父さんの趣味に影響を受けた、お父さんの趣味が好きだった」ということ。

お父さんの趣味は多数派ではなかったけど、私に影響を与えた

親の夫婦関係が悪化するまでは家族でよく公園に遊びに行ったり、家で映画を見たり、毎年旅行もしていた。
父は、ゲーム機は買ってくれなかったけれど、キックボードとか、ローラースケートとか外遊びできるものは買ってくれた。家で観るDVDは「ミスタービーン」とか、ミニシアターで上映しているようなちょっとマイナーな映画ばかりで、子供向けとか、メジャーなものはあまり観なかった。

旅行では毎年、スキーへ行っていた。まだ外が真っ暗な早朝に車で家を出て、毎年同じペンションに泊まり、顔馴染みのオーナーに会うのがお決まりだった。オーナーのおじさんは、まるで親戚のように「背が伸びたね」と言ってくれたり、わたしの好きなコーンスープを夕飯に作ってくれた。
父は家族で外食をするときにもいつも、行きつけの中華料理店ばかり行きたがっていた。

夏に旅行をしたときは、これといった観光スポットがない山奥へ行ってハイキングとか、滝を見に行くとか、かなり地味な旅行だった。父は車の運転が好きだったけれど、電車で旅行をしたときは、鈍行列車やローカル線で目的地まで半日くらいかけて行ったりもした。

父は、写真を撮るのも好きだった。スキーの時もいつも手首にフィルムカメラをぶら下げていたし、数年前父が単身赴任する際に引っ越し準備をしているところを覗くと、かっこいいヴィンテージのカメラが部屋に置いてあった。
レコードも好きでよく夜に自室でクラシック音楽を聴いていた。母親はよく「また始まった、うるさい」などと嘆いていた。

母親はこういった父親の趣味があまり理解できない人だったのか、よく「本当は夏に海行きたい」とか、「新幹線で大阪とか行きたい」とか、「お父さんの選ぶ映画は面白くない」などと愚痴っていた。
たしかに母親の意見の方が一般的というか、多くの人が好むものだということはわかる。

大切な一瞬を切り取ったような写真の雰囲気まで父のものに似ていた

一方で今のわたしの趣味はというと、家でゲームをするよりも外で身体を動かしたり、自然の中でのんびりするのが好きだし、メジャーな映画よりも作り手の気持ちが伝わってくるようなマイナーな映画や、味のある古い映画が好きだ。

旅行ではゲストハウスやユースホテルに泊まるし、同じ宿をリピートすることもよくある。
それは、人の温もりや優しさに触れたり、自分の好きな土地で宿をやっている人に興味があるから。

新幹線に乗って都市部へ旅行へ行くよりも、鈍行列車に乗って、ガイドブックの後ろのほうに少しだけ紹介されているような、秘境みたいなところへ行くのも好きだ。到着したときに達成感を味わえるし、人気が少なく落ち着いていて、現地の人たちとの距離感も近い。

さらに写真を撮るのも好きだ。しかも、一見下手くそだけれど大切な一瞬を切り取ったような写真の雰囲気まで、父のものに似ている。
カセットなどのアナログな方法で音楽を聴くのも好きだ。

いつになるかは分からないけど、父と映画の話や旅行をしてみたい。

こうして並べてみると、わたしの今の趣味趣向は父のものに良く似ていて、本当の人柄をよく知らない父親だけれど、その血をしっかりと引いていることが確かめられる。
もしかしたら、今のわたしがこういったものを好むように父も、独特の雰囲気や人の心や優しさ、温もり、繊細さが伝わるものを好む人柄なのかなとも思う。

そういえば父は、わたしの母方の祖父が亡くなったとき、その場でただひとり亡くなった祖父との血縁がないにも関わらず、唯一涙を流していた人だ。本当はわたしも一緒に泣きたかったけれど、父以外に誰も泣いていなかったので必死に我慢した覚えがある。

父が母を苦しめたという事実を知っているからこそあまり想像上の父を美化したくはないけれど、実は情が深くて繊細な人なのかなと思う。
お父さんと一緒に映画を観たり旅行したりお酒飲んだりしてみたいけれど、たぶんこの先も無理か、何十年も先になると思う。