基本的に優しい父。それでも、母と父の喧嘩は絶えなかった

うちは裕福とはほど遠い生活をしていた。
父、母、兄、私の4人家族。
父は基本的にとても優しい。ただ頭に血が上りやすいのか感情的になることもある。それでも家族に暴力を振るったことは一度もない。怒られて叩かれるとかはあったけど、理不尽に自分の気分次第で家族を傷つけることはしなかった。

むしろ、母の買い物に付き合って長い時間待たせても怒らず、その間兄と私が退屈しないように付きっきりでゲームセンターに連れて行って貰ったことをよく覚えている。
特別甘やかされたわけじゃないが、決して、父親だからと理由もなく偉そうにしてることはなかった。

お金に余裕はなかったけれど、とても平凡な、周りから見たら普通の家族だった。

ただ兄や私、つまり子供から見ると夫婦仲はあまり良くなかった。
それも父親の育った環境と母親の育った環境が違いすぎた。

父親は両親、私の祖父祖母と仲が悪く、祖父も口が悪かったので喧嘩腰で話しているところしか見たことがない。
一方、母親の家庭はすごく穏やかで、"親に口答えする"という概念が母には全くなかった。

父に反発したい気持ちを抑え込むようになった私が抱えた生きづらさ

なぜその2人が結婚に至ったのかは、未だに理解はできない。
なので本当は優しいのだけど荒っぽい言い方の父親を見るのが、本当に苦痛な時期があった。そして見事に私が父親の血を濃く受け継いだらしく私自身短気な方で、よく、口喧嘩していた。

優しいのはわかっているのに。
兄や私を一番に考えてくれているのはわかっているのに。

だけど私も自我が生まれ、1人の人間なので衝突する。
兄は言い争っても仕方がないと割り切りがとても上手で私だけが全身で受け止め、全力で反抗していた。

だけど、どうしても父親には敵わず、いつの間にか私は反発したい気持ちを自分の中にしまい込んだ。
心の中で嫌だなぁって思い、口にせず、争わない。

なんだ、これで、平和じゃん。
私が、我慢したら、無駄にエネルギーを消費することも傷つけ合うこともない。
そうして自分の気持ちを飲み込み続けていたら、気づいたら私はとっても生きづらさを抱えるようになっていた。

ある日ストレスが爆発。「それで人間かよ!」父に投げかけ、逃げた私

それと共に両親はどうして夫婦喧嘩が絶えないのか、一歩引いて見てみた。
私が感じたのは、父親の仕事が肉体労働の外仕事で天気によって休みになったり毎月の給料が安定しないことに、母は不安とイライラをぶつけていたことに気付いた。
私が物心ついたときには両親共働きだった。
そんなものなんだろうと思っていたし、比べたらキリがないけど、うちはマシな方だと分かっていた。

DVがあるわけじゃない。
借金があるわけじゃない。
お互い浮気をしているわけじゃない。

だけど、私は、家の中がほっと出来る場所ではなかった。
いつもどちらかの顔色を伺って、喧嘩になりそうなら私がおちゃらけて場を和ませようと必死だった。

……まぁそんなことでは何も解決できずに私のストレスが溜まっていって、私が高校生のころ何をきっかけだったか忘れてしまったが私が爆発した。

「もう、そんなんなら離婚してしまえ!!!!」
「子供にそんな姿見せるなら別れろよ!!」
「なんでそういう言い方しかできねーんだよ」

やっぱり女だからなのか、どうしても母親の方に付きがちで父親を責めることが多く、言ってはいけない事を言った。

「お前は言葉発する前に頭で考えること出来ないの?!それで人間かよ!」

父親にその言葉を投げかけ、一方的に私は部屋に逃げた。
そして、涙が、止まらなくなった。
一気に後悔に飲み込まれた。
あぁ、なんてことを言ったんだろう。
仕事が大変なのに、ここまで育ててくれたのは父親のおかげなのに。
そんなときに限って優しくしてくれたことばかり思い出し、泣き疲れて眠った気がする。

土砂降りの翌日。母に迎えを頼むと、父がすでに迎えに来てくれていた

次の日は朝は会話をせずに家を出る。
いつも通りの高校生活を送り、5時間目くらいから、雨が降り出した。
最悪だ。傘持ってきてないし。早く雨止んでよ。
でも天気は誰にも変えられず、帰る頃には土砂降り。
仕方ないから母親に迎えにきてくれるように電話をしたら、電話の向こうで母親はこう言った。
「もう、パパが迎えに行ってるよ。」

………は?
昨日、あんなに酷いこと言ったのに、頼む前に、迎えにきた?
玄関から外を見ると、何台か生徒を迎えに来てくれている親の車が並んでいて、父親は、玄関から一番近い所に車を停めて待っていた。

みんな、なるべく、校舎近くに停めたいはず。
なのにベストポジションには、間違いないうちの車が停まっていた。
あの場所、取り合いになるはずなのに。
あの場所に停めれてるってことは何分前に来てたのよ?

あの時車の中で何も言えなかった私の代わりに今、伝えたいこと

ごめんねとありがとうを言わなきゃ。
何度も何度も頭で繰り返し、よし、言うぞ。と決めたときに走って車まで行った。
「おー、やっときたかー。すごい雨だなー。パパ仕事休みだったから迎えにきたわー」と何事もなかったかのように私に話しかける。

その時自分の小ささ、くだらないプライドにすごく恥ずかしくなった。
涙を堪えるのに必死で、ごめんねもありがとうも言えなかった。
「……何時から待ってたの」
顔を見ることはできず、窓の外の方向を見ながら私が無愛想に聞く。

「さっきだよ。たまたまココ、空いててラッキーだった」と、普通に答える父。
そんなわけない。土砂降りで迎えの車で駐車場の取り合いで、ココがたまたま空いてるわけない。
そのまま何もお互い話さず家に帰った。

結局私は何も言えなかった。
部屋に行きまた、泣く。
ばかだ。私は、なんてばかなんだ。

どんなに毒を吐いても無条件で愛してくれている父。
きっと父は10年も前のこのことを覚えていないだろう。
だけど、いつか言いたい。

めちゃくちゃシンプルな言葉だけど、
「あの時はごめん。ありがとう。」
そして、
「愛してくれてありがとう、私もパパが大好きだよ」