年頃の乙女には高いハードル。ふわふわの腹巻きが、見守ってくれた

「お腹冷えるから、これ、しとき。腹巻き言うてな、お腹に巻くねん」
と、母から渡されたのは薄いピンク色の腹巻きだった。
私の寝相が悪くて布団が乱れ、夏のクーラーの下でお腹がむき出しになっているのを、母は心配してくれていたらしい。
「へえ~、腹巻き」
小学生のころの自分は、物珍しそうに腹巻きを受け取ると、早速、手で広げて、足を通し、腰回りに装着した。
すると、グッと締め付けられ、少しゴムがきついような感じがしたが、なんかお腹が強くなったみたいだった。
まるでゲームの中の戦士がアイテムを手に入れたみたいに。甲冑とまではいかないが、盾付きのベルトをゲットしたような気分になっていた(そこまで腹巻きは硬くないのに)。お腹が包まれ、守ってもらっているという安心感があった。
私はすっかり腹巻きを気に入った。
あるときは、ドラえもんみたいだ!とポケット代わりに、腹巻きに物を入れて遊んだこともあった。
トイレに行くときに、毎回腹巻きをずらして用をたすのは、めんどくさかったが、それも新鮮で面白かった。
だが、そんな私も中学生という多感な時期になってくると、腹巻きをしているのが恥ずかしくなってきた。
ある休憩時間に、次の体育の授業に向けて着替えていると、周りの子たちに腹巻きを見られてしまった。
「何それ!」と案の定、突っ込まれて、腹巻きだと答えると、なんかおじさんみたいだねと、笑われてしまった。
その場で脱ぐのも恥ずかしくて、そのまま体育でグラウンドを走り、汗で濡れ雑巾みたいにびちょびちょになった腹巻きをそのまま着て帰ったのを覚えている。その時は、腹巻きを不快なものだと思ってしまった。
それから腹巻きを学校で着ていくことは、なくなっていった気がする。
温かく包み込んでくれる腹巻き。
でも年頃の乙女にはハードルが高かった。
冬に丈の短いスカートでお腹が冷え、生理痛でしんどいときも、意地でも腹巻きをせずに我慢していた。
家でも着けなくなり、気づけば引き出しの奥に腹巻きは眠ってしまっていた。
あれから大人になり、昔の引き出しを整理していると、いちばん初めに手に取った、あの薄いピンク色の腹巻きが出てきた。
ゴムも緩んでふにゃふにゃになってしまっていたけれど、懐かしさが込み上げてきた。
途中、毛糸のパンツ時代もあったけれど、なんやかんやで、私は腹巻きが好きだった。
腰を痛めて固いコルセットをつけたときもあったけど、あのふわふわの腹巻きが好きだった。
ありがとう、腹巻き。
ずっとお腹を守ってくれて。
途中で着けなくなっちゃってごめんね。
腹巻きは単なる衣服ではなく、私にとって楽しい思い出も残してくれた相棒だ。
腹巻きを初めて手に取ったときの、わくわく感。
着けているとき、そばで一緒に見守ってもらっているような感覚がした。
「久しぶりに着けてみようかな」
私がぼそっと言った独り言に、腹巻きが笑って喜んでくれている気がした。
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