第一印象は、強烈な憧れ。
私はあの子になりたかった。
大学4年生の春。友人に勧められて参加した就活のイベントで、私は彼女に出会った。
1人1分ずつ与えられた自己PRタイムで、チアの副キャプテンをしていたことをハキハキと笑顔で話す彼女。大きなくるくる動く目。ショートカットがよく似合っている。参加者の中でずば抜けてかわいく、話もうまい。私が企業側だったら、絶対この子を採る、と思った。
こんなにかわいくて素敵な子、きっとたくさん愛されて生きてきたんだろうな。住む世界が違う。こんな子に生まれたかった、なんて。
今思えば、あれは憧れを超えて嫉妬だったかもしれない。
イベント後の懇親会では、たまたま彼女と同じテーブルに着いた。
何を話したらいいんだろう、内心どきどきしていたら、隣の席の人が飲み物を私にこぼしてしまった。
「大丈夫!?私拭くもの探してくるよ」
彼女はさっと席を立って、タオルを持ってきてくれた。
かわいい上に気が利いて優しいなんて。すごい。きっとこの子は私なんかとは違って、大きい良い企業に行くに違いない……と、お礼を言いながらぼんやり思った。
同期になり再会した素の彼女は、就活の印象と違い元気いっぱい
それから数ヶ月。私は地方の中小企業に内定を貰った。同期入社は私の他にもう1人。
連絡先を教えてもらい、仲良くなれるかな、とそわそわしながら、「はじめまして!これからよろしく」と連絡をした。「わたしたち、会ったことあるよ笑」と返事が来た。
え、うそ、誰?まさか。
あの子だった。私たちは同じ町に住んで、同じ会社で働くことになった。
大人しそうに見えた就活の時とは打って変わって、素の彼女は元気いっぱいだった。内定者懇親会で再会したときは、青いカラコンにギラギラのアイシャドウ、ばちばちにあがったまつげで「久しぶり~!」と手を振られて度肝を抜かれた。ギャ、ギャルだ、と思った。
でも、全部が彼女に似合っていた。内定先の社長の「良くも悪くもみんな会社に染まっちゃうからね」という一言に「そしたらわたしが周りキラキラにしますね!ラメ足りてなくな~い!って」と笑顔で答えた彼女を見て、この子と同期で良かった、と心底思った。一緒に働けることにわくわくした。
転職を考えている彼女に、「置いていかないで」なんて言えない
周りはほとんど田んぼの町。小さな会社で同期はふたりきり。私達が打ち解けるのにはそう時間はかからなかった。
お互いの家を行き来して、たくさん話をした。憧れだったあの子は、大事な親友になった。2人なら何でも楽しかった。彼女の口癖は私の口癖に、私の口癖は彼女の口癖になった。いろんなことが混ざりあって、2人で1つみたいだった。
初めて彼女に「会社辞めようと思ってる」と言われたときは、私を置いていかないで、いつまでも2人で楽しくやってこうよ、と思った。そんなこと彼女には言えなかった。
そして社会人2年目の春、コロナ禍がやってくる。転職をするには厳しく、会社の休みが増えて2人でたくさん遊んだ。たくさん話した。
彼女の深いところまで知っていくうちに、「こんなところで埋もれないで、キラキラ出来るところへ羽ばたいてほしい」と思うようになった。私もいつまでもこの子に縋っていてはいけない、と自分を見つめ直し、やりたいことを追ってみることに決めた。
私は私で、あの子はあの子として出会って、一緒にいられて良かった
夏の終り、わたしたちはそれぞれの巡り合わせで新しい仕事が決まり、同じタイミングで会社を辞めた。毎日のように一緒にいた彼女と離れるのは嘘みたいだった。
でも、物理的には離れて別の町へ行ったってずっと一緒だと思えた。
今でも頻繁に連絡を取り合って、長電話をしたり、2人で旅行に行ったりもする。彼女の口癖の「受け身でピーピー言うな」は、彼女と離れても私の指針だ。
私は彼女の言葉に何度も救われているし、彼女も私に救われてきた、と伝えてくれる。大好きだよ、と言い合っては、現実を生きる糧にする。
初めて会った時みたいに、「あの子になりたい」なんてもう思わない。私は私で、あの子はあの子として出会って、一緒にいられて良かった。
あの子がいなければ今の私はいないし、私がいなければ今の彼女もきっといない。
憧れだったあの子と、今日も私は生きていく。