小学校を卒業するとき、クラスでタイムカプセルを埋めた。20歳になった自分に宛てた手紙と、思い出の品をひとつ入れましょう、という企画だった。私は手紙と、お手玉を入れた。
成人式の日、タイムカプセルを開ける予定になっていたが、欠席した。
すぐに東京行きの飛行機に乗らなければいけないからと理由をつけたが、単に面倒に感じたのである。
そして埋めた当時何を入れたのか、手紙に書いた内容も覚えていた。
行く必要性を感じなかったのだ。
「彼女」からの手紙を受け取らなかったお詫びを込めて、12歳の私へ
タイムカプセルを埋めて17年経とうとしている。
12歳のころの私からの手紙を受け取らなかった。今日はそのお詫びを込めて、「彼女」に手紙を書いてみようと思う。
12歳の私へ
元気ですか?
これからもがんばってください。
あなたは手紙にこの2行しか書きませんでしたね。
怒ってるわけではありません。
何を書いたらいいかわからなくて、頑張ってひねり出した言葉なのはよくわかっています。
うまく書こうとする必要はないんです。こう書くのが正しい、正解、というのもないんだと思います。あなたが今好きなものとか、読んだ本の名前とか、そういうのを自由に書けば良かったんです。そう言われても困るだろうけど……。
頑張ってひねり出した2行を、読んであげればよかった。少し後悔しています。ごめんね。
あと、タイムカプセルに入れたお手玉のこと、覚えていますよ。
地域の伝承遊びのイベントで、自分だけうまくできませんでしたね。
他の遊びに目もくれず、ずっとお手玉をし続けて、よくがんばったと思います。諦めない大切さを伝えたかった……とか深く考えてはいなかったでしょうけど、タイムカプセルにふさわしい思い出の品ですね。
日々のささやかな積み重ねが、私をつくることを今の私はわかります
もうすぐ私は29歳になります。
案外おとなになるって難しいです。
17年のあいだ、いろいろなことがありました。
絵を描くのが好きになって、美術が学べる高校を選んだんです。
ところが高校では美術そっちのけで演劇に没頭して、大学に入っても続けました。下北沢の舞台に立ったんですよ。すごいでしょう?それから就職したけどうまくいかなくなって退職して……。
あなたと仲のよかった友達は、結婚して子どもが産まれたそうです。
人生順調ってわけではないけれど、まあまあ、愉快に過ごしています。
卒業文集に、将来の夢は作家だと書きましたね。その夢を決意させた小説は、まだ実家に眠っています。次に帰省したときに読んでみようかな。
最近、文章を書く仕事をしてみたいと考えはじめました。
あのとき作家を夢見ていたわりには、相変わらずなかなか書けません。自由に書くって難しいですね。どうしてもうまく書こうとしてしまいます。ここだけの話、この手紙も悩みすぎて締め切りに間に合うかわかりません。
でも、ずっとお手玉をしたあの日のように、諦めず少しずつ書こうと思います。
今日が、その第一歩です。
『13歳のハローワーク』で読んだ「作家は人に残された最後の職業」という言葉、あなたはあまり理解していなかったでしょうが、今の私はよくわかります。
1日1日のささやかな積み重ねが、私をつくりあげるのです。
美術も演劇も、道半ばになってしまったけれど、出会えてよかった。
あなたはこれから、出会えてよかったと思えるものにたくさん出会います。
楽しみにしていてください。
私は元気です。
これからもがんばります。