誰かこの地獄から引きずり出してくれないかな。20歳の私が考えるのはその事ばかり。
瞼を開けば、当然のように現実が広がる。
憧れた一人暮らしは孤独で、寂しさを埋め合わせるために付き合った5つ年上の彼氏に溺れて、浮気されて捨てられた。

恋愛の傷を埋めるように、夜の街を歩き優しくしてくれる人を探す

心身は病み、会社では突然涙が溢れ出してきた。
頭痛に眩暈。腰痛。胃痛。どこもかしこも、ボロボロで。
でも、いざどこが一番痛い?と聞かれても、どこが痛いかわからなかった。
私の現時点の人生で一番みっともなくて、しょうもない時代、人生の汚点。
何もかもが嫌になってしまった。
あんなに一人の時間が大好きだったのに。あんなに沢山本ばかり読んでいたのに。
甘く刺激的な恋愛は私にとっては毒でしかなかったし、中毒性もあった。
恋愛で負った傷を埋め合わすように、私は夜の街を歩いて、合コンや街コンに。
「若いね」「 可愛いね」
若さも時間さえも持て余して、私は年上の優しくしてくれそうな人を探した。
何の映画を見たのか、どんなご飯をご馳走してもらったのかさえ覚えていない。
帰り道に一人で電車に乗りお礼のラインを打ち込みながらふと、流れる景色の電車の窓に写った自分の姿は作り物のようであったし、詐欺師や悪女のようでもあった。ほぼ毎日メイクを重ねて、夜の街に繰り出す生活で、私は私の本当のすっぴんすら忘れかけていた。
この地獄から抜けだしたいと願うわりに、この地獄に沢山の男の人を引きずりこんでいた。
優しくされるばかりで、1ミリもその優しさを返していない。
無償の愛は存在しないし、自分を大切にできないのに誰かに愛を乞うなんてできるはずもない。返せない恩は借りてはいけないのだ。

ふと思いついた自動車学校入学。母も賛成し、すぐに入校手続きへ

ふと、母からの電話で朝方に目が覚めた。
こんなに休みの日に、朝早くに起きたのはいつぶりだろうかと思ったほどだ。
両親からの電話は特にこれといって内容はなく、ただの生存確認のようなものだ。
私はふと自動車学校に行こうかなと、なんとなく母に告げた。
母は「いいじゃない!」と賛成して嬉々として、すぐに私の近所の自動車学校を調べてすぐに私に入校手続きをするように言った。
自動車免許は今の私には必要なかったが、何か身の助けになるものを初めて見たかった。
翌週には私は入校式を受けて、その日のうちから車を運転したり、授業を受けたりした。

それからの生活は一変した。
仕事が終わるとそのまま自動車学校に行き、授業を受けた。
土日も真面目に自動車学校に朝から夜まで通い、授業と授業の間にはテキストを開いてコツコツ勉強もした。
学校を卒業して数年しか経っていないのに、ツルツルとしたテキストを撫でると懐かしくて、なんだか楽しかった。

引きずられてでも出たかった地獄を作ったのは自分で、甘えや弱さの塊

働きながら学校に通うのは意外に大変で、私は結局半年も学校に通うはめになった。
途中、職場で人事異動があり、部署が変わったり忙しくなったり疲弊したりして通えなかった時期もあったが、年末に免許センターに行き、一発合格を納めることができた。
何かに向かって一生懸命になっている時は、恋愛なんて考えることはなかった。
ただ毎日が目まぐるしくて忙しくて、充実していたいい時間だった。

誰かこの地獄から引きずり出してくれないかな。
その地獄を作ったのは私自身で、私の甘えや弱さの塊だったと今ならわかる。
世間知らずで甘ったれ。あのままズブズブと本当の地獄に堕ちていたらと思うとゾッとする。
夢や目標は人を強くする。
私は今は仕事の傍らに小説や文章を書くのが趣味でそのために、沢山の本や記事を読み、様々な経験や体験をしたり、周りの人の話しに耳を傾けたりしている。
まだ私の人生は長い。
現実と目標をうまい具合に擦り合わせて病んだり喜んだりしながら、今日も明日もその先も、温かな光で満ちていることを願って暮らして生きたい。