私は島根に住んでいる。コロナが発生する前は、少なくとも年に一度か二度は県外に旅行に行っていた。気分的には旅行というよりも、部活の遠征的な気分で東京や広島に行っていた。

私は同人誌を作るのが趣味である。好きなアニメや漫画の二次創作の小説を書いたり、オリジナルの小説を書いたりして同人誌を作っている。
それを頒布するのが、同人即売会という場だ。

一般的によく知られているのが「コミケ」。年に2回あるお祭り。それ以外にも同人即売会は開催されている。ほとんどが東京や大阪などの主要都市で開催されるので、必然的に都会に遠征することになる。

時間もお金もかかる遊び。それでもやめられないのは「楽しいから」で

参加したいイベントを決めて、サークル参加を申しこみ、必死になって同人誌を作り、夜行バスに乗って東京へ行く。時間も金もかかる遊びだと思う。だけどこれが、まったくやめられない。

部活の遠征であれば、目標の大会に向かって練習して、大会で成果を出すことに喜びを感じるだろう。大会の会場には、同じように頑張ってきた他校の生徒がいたり、なかなか会わない知り合いに会ったりもするかもしれない。
それが同人誌作りにも当てはまると思う。

どんどん膨らむ妄想をどうやってまとめて、一冊の小説にするかを考えるだけで楽しい。表紙はどんな加工や用紙を使おうか? 内容にはあれも入れたいし、これも書きたい。そうなるとあの話も入れたくなって……。予算的と妄想が競り合う。

作り上げる同人誌は、一球入魂。いかに読んだ人に打撃を与えられるか。べつに売上を競うわけではないけれど、たくさんの人に読んでもらえたら単純に嬉しい。
夜な夜な迫りくる締め切りに悲鳴を上げながら、同じように原稿をやっているフォロワーたちと通話する。締め切り極限になると通話している余裕さえなく、黙々と書いている。
苦しいはずなのに、それが楽しい。

同人即売会で過ごす1日は、まるっきり部活の大会と変わらなかった

同人即売会に参加する他県のフォロワーたちは、さながら他校の部活仲間だ。会場で「久しぶり!」なんて言いつつも、全然久しぶりの気持ちはしない。だって、心の距離感は、実際に住んでいる距離と比例しないのだから。
イベントには、当然知らない人だって参加している。
この会場にいるのだから同じ「好き」を持っているのは分かるけれど、この本が相手の「好き」にヒットするかどうか分からない。だからサークルの前に立たれて見本誌を手に取られた時なんて、最高に緊張感が高まる一瞬だ。

球技で相手がサーブを打つ時と同類の感情。
そんなドキドキの中で「この本ください」なんて言われようものなら、点を勝ち取ったとも言えるものだ!
たまに「事前に公開されたサンプルをみて、この本を狙ってました」という必殺技が飛んでくることもある。そうなったら大勝利でお祭り騒ぎ。

大会で優勝しました!と自分の学校に大手を振って帰れる。
それで一日の終わりには「今日のイベント、楽しかったね」「お家に着くまでがイベントです」とねぎらいながら、疲れた体で帰途につく。まるっきり、部活の大会と変わらない。

「嫌だ」と文句を言った部活を彷彿とさせるイベント遠征は私の青春だ

コロナ禍ではイベント会場をオンラインに移したオンラインイベントも賑やかになっている。ウイルスに感染する恐れはないし、移動もないから時間と体力に融通が利く。

だけど、私はやっぱりどんなに苦労しようとも遠征して、イベントに参加したい。フォロワーたちと直接話す楽しみも、見本誌を読まれるドキドキ感も、ガヤガヤと賑やかだけど一定の秩序をもったホールも、すべてが恋しい。あの熱気は、遠征先でしか味わえない。

オタク趣味は一人でひっそりと楽しむこともできる。イベント参加のようにたくさんの人と楽しむこともできる。
私はその両方にとりつかれている。
学生の頃に嫌だ嫌だと文句をつけながら励んだ部活。それを彷彿とさせるイベント遠征に、私は「青春」を捧げている。