わたしは父も母も嫌いだった。
そして、両親の仲は最悪だった。
だけど最近、父への感謝の気持ちが芽生え始めた。
その気持ちを忘れないようにしようと、ひそかに思っている。
母はよくわたしに言う。「父親の愛情不足で、あなたはファザコンね」と。
ファザコンには2種類ある。
1つは、お父さん大好きタイプ。
わたしはそうではない。
もう1つは、父親の愛情を渇望しているタイプ。
◎ ◎
幼少期に、父親から愛されなかったというコンプレックスは大いにある。
小学校低学年のとき、珍しく家にいた父に、一生懸命話しかけた。
話してる間中、父はわたしに顔を向けることはなかった。
話し終わって「ねえ、聞いてる?」と訊ねると、はじめてこちらを向いて「ごめん、聞いてなかった。もう一回言って」と言われた。
その後のことはもう覚えていない。
もう一度話したのか、話さなかったのか。
さらに、話を聞かずに何をしていたのか訊ねると、「仕事」だったはずが、実はゲームだったことを知ったわたしの絶望は底知れなかった。
それ以来、父とまともに取り合う気がなくなった。
思春期になってからは、父嫌いが加速した。
わたしが着替えていても、お風呂に入っていても、ノックもせずにあちこち無神経に開けて回るのだ。
父は配慮の足りない人ではあったのだが、思春期の女の子にとって、これは「配慮の足りない人」では済まされなかった。
小学校高学年から今まで、いかにわたしが父嫌いか話すと、「お父さん、可哀想……」と言われるほどに、父が嫌いで嫌いで仕方なかった。
◎ ◎
その結果……かどうかはわからないけれど、わたしが好きになる人は、年が離れている男の人が多い。
その好意は、恋愛・恋愛以外と種類を問わない。
そして、恋愛以外の場合は、「この人がお父さんだったら良かったのになぁ」とよく思う。
確かにファザコンなんだと思う。
社会人になるまで、父とはほとんどまともに会話をしてこなかった。
わたしが父に声をかけるのは、お金を出してもらいたいときだけ。
塾に行きたい、夏期講習を受けたい、旅費を出してほしい、受験費用を持ってほしい等々。
塾等勉学にかかる費用は、時に月10万に上った。
受験費用は、1か所あたり3万はしたと思う。
学費に至っては、年間100万超え。
さらに、頻繁ではないにしても旅費だって数十万。
父の機嫌が非常に悪いときは、たまに理不尽に怒られることもあったが、お金が欲しいときだけすり寄る(しかも甘えるわけでもなく態度も悪い)わたしを責めたことは一度もなかった。
◎ ◎
父と話すようになったのは、死ぬほど追い込まれたとき。
わたしが仕事で疲れ切ってしまったとき、母は助けてはくれなかった。
それどころか、よりわたしを追い込むばかりで、父に助けを求めた。
父の尽力のおかげで、回復することができた。
それをきっかけに、父には定期的に近況報告をするようになった。
もともと、父と会うときはお金が欲しかった。
というか、お金をもらっても一緒にご飯を食べるのすら嫌だと思うほど嫌いだった。
だから、せめて会うならお金をくれないかな?ぐらいに思っていた。
それが、自ら「次いつこっち来るの?」と聞くようにまでなった。
母に洗脳されていたことも、大きく影響していたと思う。
「父親の愛情不足」という言葉を、何度浴びせられたかわからない。
◎ ◎
父から見たら、わたしはお金を出してもらいたいときしか話しかけない娘。
母と一緒になって、悪口を言っていたことも、知らないはずはない。
自分1人で物事を解決できなくなったら急に寄ってくる。
我ながら、可愛げのカケラもない。
そして、わたしは父の恩恵をこんなに受けておきながら、あんな扱いをして、責められたこともないのだ。
もしかしたら、父は結構優しいのではないか?と最近思い始めた。
文字に起こして、はじめて涙が出た。
父は変わらず臭いし、嫌なこともたくさんあるけれど、わたしはもう少し、父がわたしにしてくれたことを忘れないように、感謝しながら生きたいと思う。