1学年6クラスのまあまあ大きめな公立校で、小学5年から中学3年まで5年間も、毎年同じクラスになる腐れ縁の奴がいた。
クラス替えをいくらしても、5回も連続して同じクラスだったのは唯一彼だけ。
しかも、塾も一緒で、家も近くて、思い返せばいつもそこにいた気がする。
小学校のスポーツ大会も、掃除当番も、中学校のクラス委員も、夏期講習も、更に言えば帰り道も、思い返すといつも近くに彼がいた。
毎日くだらない話ばかりで、何を話していたかなんて全然思い出せない。
親友と言うには距離があるような、幼なじみと言えばいいのか……。
◎ ◎
私の育ったところは、北は瀬戸内海、南はアルプスがあり、夏になると日差しが強くて心地が良い、こじんまりとした田舎だった。
私は幼いなりに、自分の置かれている世界が狭いことに嫌気が差していたが、彼はそんな小さな地元にピッタリはまる、爽やかで真面目で、学ランが似合う奴だった。
中学を卒業した15歳の私は上京し、一方、彼は地元でお手本のような高校・大学へ進学したと、人づてに噂だけ聞くような存在になっていた。
クラスも塾も一緒、つまり土日も夏休みも冬休みも、毎日一緒だったのに、ちゃんとした記憶が全然ないし、連絡先すら知らない。
思い返せば、当たり前にいる存在で、絶対にまた会う確信があったのかもしれない。
その後、私達が20歳になる年に、噂好きな友人が彼を連れて一緒に東京へ来るからと言い、再会したものの特に深い話もせず、連絡先も知らないまま、いつ会うのか分からない「またね」を言ったのだった。
その時も、思い返せば、また会う確信があった気がする。
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そして、ついこの前、26歳を手前にして、また出会ったのだった。
噂好きな友人が、彼と私を引き合わせた。
東京へ来るからと。
私は相変わらず東京で何かを追いかけ、彼も相変わらずで地元の一流企業に就職したらしい。
新橋の汚い居酒屋で、3人ともゲラゲラ笑いながら、懐かしい話と同級生の噂話でひとしきり盛り上がった。
こんなに笑ったのは10年ぶりだなと思うほどで、時間は気がついたら23時を回っていた頃、ぽろりと「中学のときに1回だけ誕生日プレゼントにシャーペンをくれたのが嬉しかった」と彼が言ったのだった。
素直に驚いた。
そんなことを覚えていたことも、嬉しいと思って受け取っていたことも。
「ごめんそれ、うちからのプレゼントじゃないんよ、アヤナがこれ渡してっていうけん、渡しただけなんよ」
私の記憶上、彼に誕生日プレゼントを渡したことはない。
バレンタインに焼き菓子を彼の妹の分も、と思って大量に渡したことはあるけど……。
中学2年の時、同じクラスになったアヤナは、確かにかなり熱を上げて彼のことが好きだった。
そんな彼女に、「お願いだから彼に渡して欲しいの。自分で渡しても使ってくれないだろうから」と、ラッピングされたシャーペンを渡され、そのまま彼に横流ししたような気がする。
私は、彼が身近すぎて、そんなことを嬉しがってくれるなんて、思いもしなかった。
いつもやっていた、給食のデザートあげるよ、くらいのノリだった。
10年以上経った今、初めて彼の気持ちに気づいた。
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いつもそこにいたけれど、あまりにも私達は違う人間だし、君のことすごく好きだけど、君に対する好きの気持ちを何に分別すればいいのか分からなかったんだ。
真面目で優しくてひたむきで、こんなに爽やかな奴いないと思ってたよ。
野球部のエースでピッチャーで、4つ歳下のうちの弟だって憧れていた。
当時の私には、失ったら大きすぎる存在で、そんな君を素直に好きだなんて、思えなかったんだよ。
アヤナは高校に進学してからも、彼に告白したらしい。
「そうなんや、お前からとちゃうかったんや、知りたくなかったわ……」と、悲しそうな顔をしていたのが、素直に私も悲しかった。
それからというもの、連絡先を交換して、どうでもいいLINEを毎日送り合っている。
再会しても、腐れ縁だと思いながら。
私達はきっと、思いあっても交わり合わないんだろうな。