先日、久しぶりに福岡の実家へ帰省した際、クローゼットやかつて使っていた勉強机の中の要らないものを分別して捨ててほしいと、母から頼まれた。
勉強机にしまっていたはずの美術の授業の品々は、思い出に浸って見返したかったのだが、とっくに母から捨てられてしまっていた。
「私が残しておきたかったものをお母さんが大概捨ててしまっとーけん、もうあとはゴミしかないやろ〜」と皮肉を言いながらクローゼットを開く。
そこにはなんとなく見覚えのある仮面ライダーのベルトやキーホルダーが出てきた。
中学1年生だった私が“あること”を口実に仮面ライダーと戦隊シリーズを見ることにドはまりしていたことを思い出した。

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私立の女子中学校に入学した私。
その時の担任は学年担任で唯一の男性で、30代の妻子持ち“イケメン体育教師”だった。
そんな先生は、「某男性アイドルグループから、とある事件を機にグループ脱退した『元メンバー』に顔立ちも背格好も似ていた」と説明すれば誰でも想像つくだろう。
先生はそのようなルックスから、私の女子校ではどの学年でもファンクラブが出来るほどの人気だった。

私は物心ついた時から「どこかで太鼓判を押されている相手」に対し、急激に距離を詰めたくなる性分で、「どこかで太鼓判を押されている相手」を具体的に表わすと、「クラスで人気者の同級生」とか「花形職業に就いた友人」とか……。
それは自信があるから略奪したいとかではなく、その人を独占することで優越感に浸りたいのだろう、と自己分析する。
平たく言えば、自信がないからこそ誰かに対してマウントを取りたいのだろう。

“イケメン体育教師”は当時、保育園に通うお子さんが2人居て、その子たちと一緒に「毎週日曜の朝、侍戦隊シンケンジャーを見ている」と、ホームルームの時間に話していた。
「先生と共通の話題がほしい」と思った私は、毎週日曜の朝に侍戦隊シンケンジャーを見るようになったのだ。

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しかし、“イケメン体育教師”と話が盛り上がったのは、あいにく侍戦隊シンケンジャーの話題ではなかった。
“イケメン体育教師”が週末に釣りに行く際に立ち寄る釣具屋さんが、私の小学校の同級生・みーちゃんの実家が経営する釣具屋さんであることが授業中の雑談から発覚。
授業があるごとになぜか“イケメン体育教師”は「おい!吉川!みーちゃん元気にしとったぞ!」と、芸人の博多華丸さんのような博多のおじちゃん口調でみーちゃんの近況を教えてくれて、それが共通の話題となったのだ。

授業中に先生とやりとりする言葉のキャッチボールは、他のクラスメイト達が見ている中で堂々と独占しているところを見せつけるにはうってつけ。
「独占することで優越感に浸りたい」私の欲望を満たしてくれる先生の授業が楽しみで、毎週先生を独占できるその時間が待ち遠しかった。

共通の話題をわざわざ作る必要はなくなったが、見ているうちに仮面ライダーと戦隊シリーズにハマってしまい、侍戦隊シンケンジャーの翌年に始まった天装戦隊ゴセイジャーも見ていた。
その経験が10年以上経って役に立つことになった。

先日「帰省してクローゼットを整理した話」を息子さんがいる知人のイケオジ(イケてるオジさんの略、以下イケオジ)に話したところ、ひょんなことから、仮面ライダーや戦隊シリーズの話になり、たまたまイケオジの息子さんがまだ幼かったころに一緒に見ていたという話題になり、盛り上がった。

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余談だが、クローゼットを整理した際、仮面ライダーグッズが出てきたのに戦隊シリーズのグッズが何一つ出てこなかったのは、きっと知らないうちに母に捨てられてしまっていたのではないかと思い返す。

そして久しぶりに対面した仮面ライダーグッズによって思い出したエピソードをここに書き起こしながら、「中学生の時に芽生えてしまった“独占することで優越感に浸りたい”という心は、10年以上経った今もちっとも変わっていなかった」と、私に気付かせてくれた。
なんだか今すぐにでも頭を丸めたいような小恥ずかしい気持ちになった。