私がもう一度食べたいと思う味は、コンビニの中華サラダだ。
コンビニの中華サラダなんて、どこでも売っているのだからすぐ買えるではないか、と思うだろう。しかし、地域の壁は意外と大きい。今住んでいる地域では販売されておらず、食べたいと思った時に食べられるものではないのだ。

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初めての出会いは数年前。私は大学生で、就職活動のため地元から一人で出てきていたときだった。
宿泊は当然ホテルになるのだが、ホテルで過ごす時はコンビニ飯が夕食となる。そのときに手に取ったのが初めてだった。

もともと中華サラダは好きで、スーパーや給食にあるとテンションが上がるメニューのひとつだ。そのため、陳列されていると思わず手が伸びる。このときもそうだった。コンビニのカップデリとして陳列されていた中華サラダを手に取り、カゴの中へ入れる。早く食べたいという思いから、行きよりも早歩きでホテルに戻ると、一目散に袋からそれを出し、最初に食べた。

春雨と酢と醤油のバランスが絶妙で、とてもしっくり来る味付けになっていた。この美味しさやさっぱり感によって次々と箸が進む。空腹も相まって、ものの5分もしないうちに完食できてしまうのだ。付けあわせのサラダとして満足感は高く、ホテルに滞在している間は毎回中華サラダを食べていた。

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コンビニによっては、商品が搬入されておらず陳列していないところもある。見つけられなければ周辺の店舗を何軒か周り、探しに歩いていたほど大好きだった。

就職活動を終えて地元へ帰ると、真っ先にそれを目当てにコンビニに向かった。すると、自宅の最寄りには陳列されていなかった。商品が豊富に入荷していても中華サラダはなく、カップデリの棚は他の商品でいっぱいになっている。
おかしいな、と疑問を覚えながら、もう一つの店舗へ向かった。しかし、結果は同じ。首をかしげながら自宅へ戻った。

不思議に思ったので調べてみると、どうやら出先の地域でしか販売されていない商品であったらしい。地元は、地域が違ったため販売していなかったのだ。
そこではじめて、コンビニの商品には販売地域があり、その地域ごとに商品が違っていることを知った。
それを知っていたならば、帰りの電車に乗る前に買って帰ったのに。そんなことを思っていた。

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就職活動は無事に終わり、中華サラダと出会った地域で働くことが決まった。またあの味に会える、そう思って住んでみると、もうそこにはあのときの中華サラダは存在しなかった。
販売期間が終了しており、季節モノでもないため今後発売される目処が立っていなかった。
私は愕然とした。
こんなにも需要がある商品なのに、なぜ全国で定番商品として販売しないのだ。頭を抱えた。

数年経って地元に帰ったとき、コンビニに寄ると、見つけた。私がずっと探していた中華サラダが、今度は地元で販売されていたのだ。思わず「あった」と声に出してしまった。それほど、驚きと嬉しさがこみ上げた。

一方で、なぜ自分がその地域に住んでいるときにはなくて、離れると登場するのだろうか、とも思った。私は食べたいのに、欲しい商品なのに、私が住んでいない地域で限定販売されている。なんとも言えない、もどかしい気持ちになった。

あまりにも見つからず、この味を自宅で再現してみようと思い、作ってみたけれど、ちょうどいい味付けにはならなかった。いろんな調味料の加減や種類を研究してみたが、これもまた、私が求めている味にはならない。何かが少し違うのだ。でも、その何かがわからない。大好きなあの味は、商品を買わないと味わえないと悟ったとき、さらに中華サラダが恋しくなった。

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今も、コンビニに寄ったときはカップデリ売り場をチェックしている。しかし未だに、当時出会った中華サラダには出会えていない。幸いにもスーパーに、似た味の中華サラダが売っていたので、今はそれを購入しているが、やはりあの味が食べたい。

初めて食べたあのときの、ストライクゾーンど真ん中だったあの味を、当時の感動とともにもう一度味わいたい。
感動しながら箸が勝手に進んでしまうようなあの感覚にもう一度出会いたい。

私にとっての“また食べたい、あの味”は、そんな思い出もつまっている、コンビニの中華サラダだ。