母の口癖は「自分がブランドになりなさい」だった。
その言葉通り、我が家では洋服などにはお金を全くかけてもらえず、お下がりやレンタル品などで安く済ませていたが、その分習い事にはかなり力を入れてもらったように感じる。

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理科の実験教室や水泳、ハープ、バレエ、ありとあらゆるものに挑戦する機会が与えられ、結果として続いたのは習字とピアノとバイオリン。

習い事のせいでみんなとは遊べないわ、練習があるからテレビは見れないわで、辞めたいと思うことは多々あったけれど、その度に母は「戦場のピアニスト」という映画(戦火の中、ピアニストがピアノを弾くことによって命拾いをし、生き抜いていく物語)の名前を出しては、「いつか役に立つ時が来るから」と、逃げる道を閉ざした。

結局才能がなかったのか、はたまた努力が足りなかったのか、習い事たちは趣味に変わり、芸術家とは程遠い平凡な人生を歩み、30歳を目前にした今、母の言葉の意味をようやく理解出来るようになった気がする。

"芸を身につけることは生きていく上で必ず役に立つ"と。
そして"芸を身につけることは自分自身にしか出来ない"ということ。
最近でいえば、外国で働きたいが為に英会話教室に行こうと思ったけれど、オンラインレッスンですら月に1万は軽く超える。
おまけに一対一や、対面レッスンともなると更に値段は上がり、週に2回や3回、1時間みっちり受けようもんなら5万は平気で超えてしまう。

また、オンラインで出来る仕事をと考えた結果、ヨガのインストラクターや日本語教師をという結果にたどり着いたけれど、結局それを学ぶのにもお金がかかる。
お金を稼ぐ為に学ぶ為にもお金がいる。
資格を取らなければ独学でも出来るけれど、生きていく為には資格はあったほうがいいし、先生がいたほうが圧倒的に成長する。
何が言いたいかというと、要は自分を磨くにはお金がいるのだ。

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社会人になりたての頃は、学生時代とは比にならない収入にテンションが上がり、百貨店コスメやブランド物のバッグに目移りし、次のお給料が入ったら、ボーナスが入ったら、なんて考えていたけれど、意外とそういうものはプレゼントで貰えたりする。
誕生日、昇給、イベントごとや誰かからの気遣い。
確実とは言えないけれど、意外と棚ぼた的に買ってもらえたなんてことがある。

そして更にいうと、ずっとずっと欲しかったアクセサリーはなくしてしまったり、壊れてしまったりすることがあるし、百貨店コスメで万全の対策をとっても、残念ながら人間だから時間と共に老けていく。

けれど、スキルや芸は自分が死ぬまでなくならない。
そしてそれは自分自身でしか手に入れることができない。
たまたま億万長者と仲良くなって、何でも買ってあげるよと言われても、資格やスキルは買ってもらえない。

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だから私はもし急に100万円手に入れることが出来たなら、私は自分を磨く為に使いたい。
極端な話、お金も服もなくなったとしても、生き抜けるような資格や才能を手に入れる為に使いたい。
それらは私自身の中にある一生の宝物になるから。