「君の話を聞いていると、地元への愛がよく伝わってきますね」

大学生の時、東京の会社の就職面接で、面接官にそう言われた。
その言葉を聞いた時の私の頭は、「?」でいっぱいだった。
私からすれば、その場では地元愛に溢れた発言なんてした気はないし、当時の私は、地元のことはそこまで好きではなかったからだ。

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「地元への愛が伝わってくる」とは?
これまで22年、ずっと過ごしてきた九州の端っこにある地元、「長崎」をできるだけ早く出たかった。
そんな気持ちを抱いている私にとって長崎は、「生まれ育った場所」という以外の認識は持っておらず、むしろ地元とはいえ、何をするにも不便なところが嫌だった。
「そんなに長崎が大好きな発言をしたのだろうか……」
面接官からの言葉に疑問を抱えつつ、東京での面接を終えてから、そそくさと長崎へ帰った。

その会社からは内定をもらって、入社することを決め、翌春から憧れの関東での生活が始まった。しかし、それもそう長くは続かなかった。
働く日を重ねていけばいくほど、地元である長崎が恋しくなり、戻りたくなったのである。
そしてしばらくしないうちに、体調を崩して休職した。

休職期間中、地元に戻ってきてから真っ先に向かった場所は、長崎港に隣接する公園である。そこで潮風を感じていると、22年育った長崎での思い出が、懐かしさとともに急に溢れてきた。気がつくと「ただいま」と街に向かって呟いていた。

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そしてまた他の日、中学の同級生たちと一緒に、長崎の街が一望できる展望台まで登った。そこで、「あそこが通っていた学校」「あれはよく遊んだ公園」と見つけてみんなと語り合っているうちに、街の景色ひとつひとつが思い出で、それら全てが今までの私を創り上げてきたものだと気づいた。
展望台から見た地元は歪な形をしていて、住宅街が山の中にもギュウギュウに詰まっていた。「変な地形だなぁ」と見渡しながら考えているうちに、この街の全てが愛おしくなり、今まで抱いていた「嫌い」という感情は全てなくなった。

私は長崎が大好きだったんだ。
そこでやっと気がついた地元への愛。面接官に言われた言葉の理由が、なんとなく分かった気がした。
自分では気がついていなかったが、地元への愛は私の心の中に確実にあったのだ。知らず知らずのうちに、その気持ちが面接の時に溢れてしまっていたのだろう。
地元を出て初めて気がついた感情だった。

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その後、関東での会社を辞めて、地元に戻ってきてからは、出る前とは心持ちが違う。街の全てが輝いて見える。地元の歴史も、温かい人々も、景色も大好きで、もはや不便なとこすらも愛おしい。
今まで、地元の友人たちと過ごして、何気なく築き上げてきた思い出だったが、今はひとつひとつを心に刻むようにしている。
もしかしたら、またいつか長崎を出る日が来るかもしれない。その時に寂しくならないように、「ふるさと」という存在の心強さと安心感を、胸に留めておくと決めた。