先日2年ぶりに部屋の大掃除をした。
ホコリが積もった棚、カビがうっすら生えたタンス、重ねすぎて腐葉土と化したプリント類……これらと久しぶりに対峙した。とても大変だった。

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ゴミ袋を片手に部屋の奥地まで進んでいくと、進めば進むほど懐かしいものが次々に出てきた。
演芸サークルに所属していた時の台本、高校生のときに大学ノートに書いていた小説、小学生のときに友だちとやっていた交換ノート……こんなに沢山まだ残していたんだと思った。パラパラとめくると懐かしい気持ちと恥ずかしい気持ちとが同時に湧いてきて耳が少し赤くなった。

あのとき台本覚えるの大変だったな。親身に教えてくれた先輩は今どうしているんだろう、小説、当時好きだった作家の先生の影響が見えすぎている。友達に無理矢理読ませて感想を聞いてまわってたな、交換日記をしていた小学生のころの友だちは結婚したとこないだ久しぶりに連絡がきていたっけ。
今と過去とが頭の中を部屋の中で子どもに戻ったり大人に戻ったり。掃除はいったん休憩することにした。
自分が好きだったものや当時の交流関係を思い出してあの人は今はどうしているんだろう、今度むかし読んでいた本を読み返そうか……頭の中を考えがめぐった。

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一通り目を通したあとこれも大掃除の醍醐味だろうと言い訳をしつつ掃除を再開しようとすると、押し入れの奥に鈍く光る何かを見つけた。手を入れて出してみると埃をかぶってはいるけれどかわいいデザインのお菓子の缶だった。
ふたを開けてみると埃が舞った。中に入っていたのは手紙だった。

こんなところにしまっていたんだ。手紙はすべて自分の筆跡で宛先が書かれていた。それらは出されなかった手紙たちだった。
一枚一枚取り出してみると友達に出しそびれた年賀状や返ってきてしまった手紙、ラブレターなどが合計10通ほどあった。
掃除の再開を先延ばしにすることにしてそれらにも目を通すことにした。

ラブレターは片想いの相手に渡せなかったものと両想いになった相手へ渡すのをやめたものがあった。
片想い相手への手紙は文字に幼さがかすかに残っていて、つたないものだった。
あのころは恋に対して随分ひたむきだったと思う。当時好きだった彼は背が高くて優しい顔立ちの男の子だった。夕方の教室で一度だけふたりきりで話したことは人生の美しい記憶のひとつであると思う。2度と会うことはないだろう彼が今幸せでありますように。

両想いになれた相手への手紙は交際の不安が綴られていた。大人になっているから字は整っているのだけれど文章は頼りなかった。あのときはずいぶん拗ねていたなと感慨深くなった。不満もぶつけてしまった。今思い返せば大人気ないし少し申し訳ないような気もする。

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物思いにふけているとラインの通知音がなった。
「掃除してるのはえらい!今日は寒いから部屋を暖かくしてね。」
彼からの通知を知らせる画面にはそう書かれていた。
物が散乱している机に手紙一枚分のスペースを空けてペンを手に取った。

手紙を書くこと、文章を書くことは自分の一部を切り取って過去に置いていく行為であると思う。ひとは過去には戻れない。でも文章は過去を保存することができる。そして今回の大掃除のように思い出を振り返るきっかけになるのだろう。
便箋の1番上にペンで宛名を書く。
「もうすぐ結婚するあなたへ」