「絶対嘘ついたことないじゃん笑」
「優しそう」
これがほとんどの人が私に言う第一印象。
「なつめちゃんの考え布教したい、女神!」
色々と話すようになって、特に相談を受けた相手に言われるのがこれ。
どうやら私は外面はいいようだ。そして私の考え方は周りの人と少し違うらしい。私が聞いても聖人君子だなと思う人物像を、かなりの人が私に対して描いている。でも、そんなわけない。だって、私が演じる優しさは、誰かに喜ばれる一方で、誰かに疎まれることがあるから。
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仕事で、新人育成の担当になった。自然と新人の相談を受けることも多くなった。成績が伸びない、仕事がしんどい。みんながそんなことをぼやいていた。
上司からは新人にモチベーションを持たせて、しっかり成績を残させることを口酸っぱく言われていた。くれぐれも仕事が嫌になってすぐ辞めるなんてことがないように、と。
「はじめは誰でもしんどいよ。上手くいかないことも、時間がかかることも当たり前。しかもうちの会社がどうカスタマーや社会に貢献しているのか、どの部署が何をしているのかもよく分からないだろうから、モチベーションを保つのも難しいと思う。だから、今月はモチベーションを見つけることをモチベにしたらどう?ばりばり仕事して、業務と会社を知る。それで、成績が上がれば仕事が楽しいとも思える。先のことは今はいいから、来月の自分のために働こうって思った結果、少なくとも私は、今こういう立場で楽しく働いてるよ。」
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モチベーションを持たせたい。上司にいわれたからだけでなく、私自身、みんなには仕事を楽しいと思って欲しいから。でも、この言葉でみんなを鼓舞できる自信はあまりない。だって、私が言ってるのは結局のところ「やれ!」ということだから。みんなが今仕事したくないと思ってるのが分かっててそれを言ったのだから。
でも、私にはこれしかいえない。みんなもそれは理解しているはず。やりたくない、でもやらないとできるようにならない。私の言葉が後押しになったかは分からないが、そうだよな、結局やるしかないよなと、なんだかんだそれぞれが奮闘し始めた。
その中で、一人浮かない顔をしていた子がいた。入社したての頃は誰よりもやる気に満ちていて、キラキラした目で私の仕事ぶりを見て、「なつめさんすごい!」と言っていた子だ。私がいつも通勤しているオフィスとは違う支社の子で対面で話すのは少し久しぶりということもあって、その時との差に驚いた。
話を聞くと、このインターンと自分が今やりたいこととの両立がしんどすぎて悩んでいるということだった。インターンをはじめたのも、やりたいことのためだった。でもインターンに時間を取られて、やりたいことの準備のための時間が取れなくて本末転倒になってしまっていた。
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細かい事情を聞けば聞くほど、仕事から逃げたいのではなく、自分にその選択肢が必要だと考えていることが伝わってきた。
「『やめる』も『やる』だと思うよ。プラス1もマイナス1も絶対値1。あなたが、それが自分に必要だと思うなら、そう信じる勇気を持って辞めたらいいと私は思う」
私の一言に背中を押されて結局その子は退職した。
でも、これでよかったのかとふと我に返って思った。相談を受けていた時の私は一体どの立場で話していただろう。今振り返れば、ただのメンバーとして、彼女を心配する一人としてだった。上司として、新人育成担当としてではなかった。自分の立場を踏まえるなら、彼女に続けさせるよう上手く話を持っていって、説得すべきだったのではないか。モチベーション持たせて仕事量を担保させろと言われていたのに。それが私の仕事で、それこそが私に課せられた責任だったのではないか。
でも、彼女にこの仕事を続けさせることに、個人的は意見として賛成できない。私個人、そして本人の主張をそのまま通すか、立場をわきまえて、それに則った対応をすべきか。何が正しかったか。もし、今回の私の言動が正しくなかったのであれば私は確実にこの会社で悪だ。