在宅フリーランスとして仕事をするようになって以来、オンとオフの境目があまりなくなった。夫に合わせて自分もなるべく土日は休むようにしているものの、完全なオフとも言い切れない。平日が10割だとすると、土日も2〜3割ほどは仕事をしている。休日の夫は基本的に昼近くまで寝ているため、その間も私は黙々とキーボードを叩いていることが多い。

オンとオフの切り替えがはっきりしていない生活に対して、特に不満は抱いていない。
「◯日が納期だから1日あたり◯◯くらいのペースで進める」「◯時までコレをやる」「日曜日は午後から出掛けるから午前中のうちにアレをまとめておく」など、タスクの管理さえしっかり行っていれば、オンとオフが入り組んでいてもあまりストレスにはならない。

ただ、このオフは「理想のオフ」とは言えないのかもしれない。
オフとは、仕事のスイッチがぱちんと切れた状態。これは、頭の中においてもだ。
仕事のことは一旦忘れて、のびのびと心身をリフレッシュさせる。
そんな理想のオフを私が過ごすためには、やらなければいけないことが1つある。

それは、少なくとも丸1日はパソコンから離れ、なるべく非日常に寄った空間に身を置くことだ。

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夫婦揃ってインドア人間ということもあり、休日も平日同様ほとんど家にいる。
ただ、仕事をしていない時間でも、私はパソコンと向かい合っていることが多い。たとえば、ここ「かがみよかがみ」に投稿するエッセイを書いていたり、他の公募エッセイや小説を創っていたり、調べ物をしていたり。その合間に仕事の連絡がぽんと入ってくれば、目だけは即座に通す。「そういえば、アレってどうなったんだっけ」と、ふいに気になることが出てくれば、メッセージのやり取りを遡ったりする。
パソコンを触っている以上、オフの時でも仕事の存在はいつでもすぐ傍にある。

ただ、フリーランスになってから、一度だけほぼ丸1日パソコンを見ない日があった。
「遊園地行かない?」と妹に誘われた、とある平日のことだった。
妹は保育士の仕事をしていて、土曜出勤の代休のような形で時々平日が休みになることがあるようだった。遊園地が遠方だったこともあり、スケジュールをあらかじめ調整して、私もその日はなるべく1日空けるようにしておいた。

しかし運の悪いことに、当日は叩きつけるような大雨だった。
遊園地という言葉の響きだけで、晴れ渡る青空がイメージできそうなものなのに。
現地で合流した妹は、傘を差しているのに前髪が酷く濡れていた。「さっき横を通った車に水たまり引っかけられたんだけど。最悪」とのことだった。ちなみに私は、遊園地に向かっている途中で電車の乗り換えを間違えた。ツイてない日というのは、とことんツイていないものである。

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悪天候のせいで、動いていない乗り物も多かった。鎖で封鎖され、無数の雨粒が滴るアトラクションには係員の姿もない。雨の日の遊園地は、こんなにもひっそりとしているものなのかと妙に新鮮な気持ちに襲われた。
結局、腹ごしらえをするために腰を落ち着けた休憩スペースが、滞在時間としては最も長かった。おそらく3時間近くは居座っていたのではないかと思う。ジンジャーエールを啜りながら、妹のマシンガントークにひたすら耳を傾けていた。その話2回目だよさっきも聞いたよなんていう野暮な感想は、いつもの如く心の中にとどめておいた。

雨の影響を受けないアトラクションや見せ物をひと通り満喫し、「じゃあまたね」と妹とは別れた。
土砂降りの雨。晴れの日のおよそ6割の稼働率だった遊園地。妹のサンドバッグになる私。
言葉だけ並べると何だか災難に思われそうだが、私の心は思いのほか軽やかだった。雨の日の外出なんて、インドアの自分にとってはベストオブ最悪の称号を与えてもいいはずだ。なのに何故だろう、憑き物が落ちたかのように気持ちはすっきりとしていた。

ふわんと浮いた心のまま、その理由を電車に揺られながら考える。
バッテリーの減りが恐ろしく速いスマホは、充電温存のためにカバンの中にしまっておいた。周りの乗客は皆、手元のスマホにじっと視線を落としている。同じことをしていたら、私のスマホは家に着く前に電源が落ちてしまうだろう。

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「そう言えば、今日は朝から1回もパソコン見てないかも」

ふとした気付きに、「もしかしてこれが正体なのでは」と少しずつ確信が強まっていった。
今風の言い方だと、いわゆる「デジタルデトックス」にあたるのだろうか。

ほぼ丸1日パソコンから離れるだけで、こんなにも身軽になれるのかと少し驚いた。
天気が悪くても、妹と延々おしゃべりするだけでも、そこには日常の中にはない楽しさや刺激が確かにあった。パソコンと距離を取ったのは、物理的にも、精神的にもだ。妹と遊園地にいる間、仕事のことはほぼ何も考えなかった。
パソコンだけでなく、仕事モードの私もきっと完全にシャットダウンされていた。

これこそが、きっと「理想のオフ」なのだろう。
ちなみにこの遊園地デーは、去年の9月の話だ。それ以来、ほぼ丸1日オフの日は今に至るまでない。家にいると、やはりついパソコンを開いてしまう。

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最近転職した夫は、前職よりも年間休日数が増えた。
「連休が取りやすくなったからさ、近いうちに泊まりで旅行にでも行こうよ」
夫婦揃ってインドアとはいえ、四六時中家にいたいわけでもない。「好きな人となら、たまにはお出かけだってしたい」というタイプだ。お互いに。

仕事の合間で、温泉宿やお出かけスポットを検索している私。
いつか来たる「理想のオフ」をより充実したものにするために。

そのときは、私も君も、仕事のことは忘れて存分に羽を伸ばそうね。
キーボードを叩く強さは人よりも控えめな方だと思ってはいるけれど、毎日叩かれていれば君もきっと疲れてるよね。エンターキーはやっぱり特に痛いものだよね。
いつもありがとう、相棒のMacBook Air。