2ヶ月ほど前から、一人暮らしを始めた。
転職や転勤などの理由があったわけではない。会社は実家から片道1時間で行ける距離にある。
そんななかで実家を出る決断をしたのは、父の存在が理由だった。

父は、あまり尊敬できないタイプの大人だった。
世の中、そんなに素敵な父親ばかりではないことはわかっている。私の父よりもずっと問題がある父親を持つ知り合いも何人かはいるし。
でも、それでも、嫌なものは嫌だった。

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嫌だったポイントはいくつかある。

一つは、店員さんへの態度が大きいところ。営業職をやっているのに、働いている相手の気持ちを想像しようとしないのだ。
私が小学生くらいの頃、アイス屋さんで、新人と思わしき小柄な高校生くらいの女の子にネチネチと文句を言いつづけていたことは今でも覚えている。盛り方が汚いだの、量に差があるだの。

二つ目は、母への気遣いが感じられないところだ。
母が作った料理に、たまに髪の毛が入っていると、大声で文句を言う。その後、その料理には口をつけない。感じが悪いことこの上ない。そりゃ、レストランで髪の毛が入っていたら憤るのも無理はない。けれど、これは家庭料理なのだ。毎日入っているとかであれば話は変わってくるが、たまに一本入り込んでいるくらいなら、黙って取り除いたらいいではないか。

三つ目は、子供を人として見てないところだ。
私には弟がおり、2人姉弟だ。父は、私のことも弟のことも、人として尊重してくれはしない。小さな頃から、教育上の配慮をしてもらった覚えがない。私たちの目の前で平気で列に横入りしたり、職場の女性の直しようがない身体的特徴をあげつらって嫌がらせのようなことをしていた話を楽しげに聞かされたりしていた。テレビを見て笑っていると、「なんか笑ってるぞ」と顔を指さされ嘲笑われた。ずーっとペットのような感覚なんだと思う。

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父のこれらの部分に辟易しながらも、なかなか実家を出る決断は下せずにいた。
一人暮らしをするとなると、かなりお金がかかる。元々通勤に困らない位置に実家があるのに一人暮らしするというのは、贅沢なことであるようにも思えた。
世の中にはもっと嫌な父親がいっぱいいる。そう自分に言い聞かせて、実家で暮らし続けていた。

が、そんな日々のなかで、一人暮らしへの決意が固まるきっかけとなったことが起きた。
酔った父に尻を触られたのだ。
恐らく、性的な目で見ているとか、そういうことではなかったと思う。ただペットと触れ合う感覚だったのかもしれない。多分、本当に、私が何をどう感じるかに関心が無いのだと思う。一般的に、娘が父親に尻を触られたらどのように思うか。想像に難くない。けれど、そんなシンプルな心情すらも考慮してもらえないくらいに、私は軽んじられていたのだ。そのことを改めて悟った。

これほどまでに私を尊重してくれない人がいる家にいたくない。そう思った私は、家を出ることに決めた。

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そうして1人で暮らし始めてから、2ヶ月と少しが過ぎた。貯金はかなり減ってしまった。当然のことである。
けれど、気持ちはとても楽になった。家に居る間、ずっとフラットな状態で過ごせるのだ。以前は、うっすらとしたマイナスな感情を背負い続けているような感じだった。
別に、父と縁を切ったわけではない。父はずっと正社員で働き続けてくれていたし、身体的な暴力を振るったこともない。それに私は事なかれ主義だから、そこまで状況を荒立てたくもないのだ。
それでも、寝食を共にすることをやめただけで、大きな解放感を得ることができた。羽が生えたような、とまで言うとだいぶ大袈裟だけど、方向性としてはそんな感じ。
大人になって良かった、と心から思う。大人になったおかげで、出来事の大小に関わらず、自分の判断で嫌なことから逃げられるようになったのだ。24歳の私はこんなに自由に生きているんだよ、と小さな頃の私に教えてあげたい。