大人になるにつれて将来の夢が消失していく、この現象のことを一体なんというのだろうか。これはまさかの将来消失症候群…? こんな感じでマニアックな名前をつけてみたが、幼いころの将来の夢を思い出せないのは私だけで、他の人は幼いころの将来の夢を覚えていたりするのだろうか。

もしかしたら小さい頃はプリキュアとかプリンセスになることを夢見ていたのかもしれない。今みたいにYouTubeもなかったから、将来の夢に”YouTuber”や”動画クリエイター”と書く子もいなかっただろう。

私は一体、将来何になりたかったのだろうか…そのことを思い出すきっかけをくれたのが、10年以上前に私が埋めたタイムカプセルだった。

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「将来の私へ」と書かれた黄ばんだ手紙。字も今より幼くて「昔の私は字が雑だなあ…」なんて思いながら、一体何を書いたんだろうと思い返しながら手紙を見つめた。しかし、まっっったくもって内容を思い出せなかった。

「Hello!自分!元気にしてるかーい?」みたいに呑気なことが書いてあったとしてもなんら不思議ではない。あわよくばそのテンションでいてくれよと心のなかで願いながら、私は手紙の封を切った。

”将来の私へ 将来の私はマンガ家になっていますか?”
なってなーーーーーーいよ!!!と思わず叫びたくなってしまった。
”私がマンガに出会ったのは、小学四年生の時ですね”
え???そうだっけ???全く覚えてないぞ…

”絵を描くのが大好きで、よくマンガを描いていましたね。今も描いていますか?”
………。
私はこの一文を読んで少し悲しくなってしまった。

今は漫画も、絵すら描いていない。「何か描こうかな…」と思ったとしても、「どうせ、下手だからいいや」と終わらせてしまうことが多かった。漫画を描くことが好きだった小学生の頃の私。休み時間も友達と一緒に漫画を描いていた。クーピーや色鉛筆で色を塗ったりして、担任の先生にも見せて、楽しく過ごしていた。

でも、今の私はどうだろう。「描こうかな」と思っても「やっぱいいや」でおしまい。仕舞いには「絵なんて描かなくてもいいか」と思うようになってしまった。漫画を一生懸命描いていたあの頃の自分が今の自分を見たら、一体どう思うだろうか。「つまらない人間だな…」とか「どうして描くことをやめてしまったの?」と嘆くだろうか。

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別に絵を描くことが嫌いなわけではない。昔も今も好きなままだ。でも、私は絵を描かなくなってしまった。いや、”描けなくなってしまった”といった方がいいのかもしれない。

中学に上がった時はまだ私は絵を描いていた。でも同級生から「中学生でまだ絵を描いてるの?」と言われ、両親からも「もう絵を描くのはよしなさい。中学生にもなって…」とあきれられてしまったことがあった。

絵を描くことは年相応ではないと思われてしまったのだろうか。私は人の目が嫌で、人前で絵を描くことをやめてしまった。一人で絵を描くこともあったが「なんか嫌だ」と感じてしまい、それから絵を描かなくなった。
それでも、本当は今でも絵を描きたい思いはあるのだ。

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私が閉じ込めていた思いを、タイムカプセルの手紙は開いてくれた。手紙を読んだ後、久しぶりに絵を描いてみたが輪郭が歪んだり、目の大きさが左右で違ったりしてどこか変な絵が完成した。

「こんなに下手になっちゃったよー」と心のなかで笑いながら、少しずつ絵を描き始めた。もうきっと、私は絵を描くことをやめないだろう。

手紙を書いた私へ
絵を描くことの楽しさを思い出させてくれてありがとう。