あぁ、またポチってしまった。

子どもが産まれてから、時間や行動範囲、何かと制限されるようになった日常生活。すきま時間ができると、ついやってしまう。

通販サイトをチェックし、旅行してみたい国、街のご当地スイーツを取り寄せたり、服や雑貨をちょっぴりおしゃれな新品に買い替えたり…。認めたくはなかった。だけど、許してしまった方が楽だ。私は、ネットショッピングにハマっている。

元々、倹約家だった。というか、ケチすぎた。

「もったいない」が口癖の母から指摘されるほどだった。仕方ないだろう、非正規社員の母1人の稼ぎで生計を立てなければならない家庭で贅沢が許されない環境で育ち、大学生になった瞬間、奨学金という“借金”を背負わされた人生を送ってきたのだから。

友達と飲食店で食事をする時も、大好きな服の買い物をする時も、まずは値段を確認する。ほしい、やりたい、食べたい…自分の欲求は二の次。許容できる価格で、それなりに気に入った商品を選ぶ。

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そんな私もようやく、自由に使えるお金を持つ余裕ができたのは社会人になって数年たったころ。奨学金の返済を終え、結婚したのは3年ほど前だろうか。収入が増える中で貯金できるようになったのもあるが、何よりダブルインカムで家計をやりくりしていると、自分の手元から出ていくお金が減った。

やっぱり値札は見てしまうが、多少大きな出費があっても生活に危機感を覚えずに済んだ。とはいえ、人生とはうまくいかないもので、生活をともにするパートナーがいると相手の都合もあるため、好きな時に、好きな場所にフラッとは行けなくなった。乳幼児を育てている間は、動きやすさ優先で好きな服も着られずにいる。

幸運にも、便利な時代だ。インターネットを介せば、遠く手に届かないところにある何かを、自分の元に呼び寄せられる。私は好奇心旺盛な性分なのだ。今まで目にしたことのない、味わったことのない何かを、経験したい。

そして、私には理想があるのだ。なりたい自分、思い描く生活を実現させ、心ときめく好きなものに囲まれて暮らしたい。たとえ身動きがとれなくても、できない理由が増えても、だ。

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ちょうど昨秋、私は命を落としかけた。

妊娠9ヶ月、急におなかに痛みを覚え、病院へかけ込んだ。数十分後に大量出血し、あれよあれよと手術台の上に運ばれた。あと1時間、遅かったらこの世にはいなかった。

そうだった、人間、いつまで生きていられるかなんて分からない。それなら、好きなように生きようじゃないか。

振り返れば、29年間、我慢ばかりだった。生死をさまよってようやく、自分の気持ちに正直に、好きという感覚を大切にした選択をしようと決意できた。命の尊さを、身をもって学んだ季節。あの時のあの感情を、私は忘れてはいけない。

特別な秋を、再び迎えようとしている。決してゆとりがあるわけじゃないし、子どもがいる今、子の将来に備えて自己投資は極力控えなければいけない。

だけど、妻になっても母になっても、私の人生はあり続けるのだ。

ネットショッピングは、今叶えられない欲望を満たしてくれる選択肢の1つ。決して無駄遣いではないし、罪悪感を覚える必要もないと自分に言い聞かせて、きょうも液晶画面とにらめっこする。そう遠くはない、いつかやってくる、ネット上ではなくリアルで旅行、買い物ができる日を心待ちにして。