同世代の人なら分かるだろうか、あの伝説のゲームを。

パッチリとした大きな目が特徴の明るく元気な女の子と、青髪で左目の下にある星型のほくろがチャームポイントの女の子が、ナンバーワンのオシャレ魔女を目指す当時大ブームとなったゲームである。
かくいう私も例に漏れず、そのゲームにハマった女の子の一人である。
あの時から私の中で「ファッション=魔法」となった。

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そう、ファッションは魔法だ。
メイクも魔法理論があるが、マスクをしても髪で顔を覆っても遠くからでも違いが分かるのはやはりファッションだと思う。
そんな思いがあるからか、私は日々いろんなジャンルの服装を着ていろんな人物に変身している。

ある時は風になびく繊細なレースのワンピースでガーリーに、ある時は大きめのフードが付いたパーカーでメンズライクに、はたまたある時はタイトなトップスとデニムでラフな韓国コーデに。
今日はどんな人になりきろう?昨日ドラマで観たあのヒロインになろうかな?それとも、あのアイドルのファッションを真似してみようかな?
幸せなことに今の会社は制服がある為、オフィスコーデなるものを気にしないでよく、何も気にせず好きな服を着て通勤することができる。

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だからなのか、よく「本当にオシャレが好きなんだね」とか「どんな服も似合ってるね」とか言ってもらえることが多い。時には「会う度雰囲気が違うから、会社以外ですれ違っても気付かなさそう」とまで言われたこともある。私にとっては褒め言葉だ。「ただの通勤なのに」「誰も見てない」……。今のところそんなセンスのない言葉をぶつけてくる人はいないが、もし聞こえたとしても私はフルシカトするだろう。だってすべて自己満なのだから。メイクもヘアスタイルも全部自己満の戦闘態勢で、毎朝部屋を出ているのだから。

でも一つだけ、何者にも変身できないアイテムがある。それは母からお下がりでもらったスカートだ。
いつ譲り受けたかは覚えてないが、恐らく母のクローゼットを一緒に整理している時にもらったのだろう。母が若い頃に着ていた服を娘の私が着ると、いつも「うわ~懐かしい~~似合うじゃん!!」なんてニコニコしながら褒めてくれるあの時間が私は好きだ。

母は若い頃はスカートが好きだったのか、柄も丈も素材もバラバラないろんなスカートを持っていて、その中の幾つかを私はもらった。どれもレトロ感があるけど決して古臭くなく、むしろコーデによっては唯一無二のスタイルが出来上がることもある。だからこそ、参考になるキャラクターやモデル像が思いつかず、「私」というコーディネートになってしまう。言語化するのは難しいけれど、「私」で家を出るときはメイクもイヤホンから流れる音楽すらも、何にしようか迷ってしまう。

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それでも、時々私は母のスカートを戦闘服にする日がある。初デートにすら履いていったこともある。誰かの真似ではなく、「私」で家を出るときはなんだか母の力を借りられる気がする。

このスカートを、当時の母はどんな予定の日にどんな気持ちでクローゼットから出していたかは分からない。
けれど、今の私にはまるであのゲームのように、足を通した瞬間魔法にかけられたような気持ちになる。
コーディネートが完成して出発する時、母とあのゲームの女の子の声が重なって聞こえた気がした。
「うん!バッチリ!!」