年は明けて2023年になり、いわゆるコロナ禍は少しずつ落ち着いてきた。県境を超えた活動が緩和され、マスクを着けずに出歩く人もちらほら。私が大好きなクラブたちの活気も取り戻されてきた。

思えばちょうど4年前にコロナが出始めた頃、夜の街での人の動きが根拠もなく批難され、ナイトクラブは軒並み営業を自粛。私がよく通っていたクラブも夜の営業を止めたかと思ったが、逆手にとって始発電車の時間から店を開けて皆で遊んだ。あれはあれで楽しかったと思う。

◎          ◎

そんなことを思い出していた2023年2月、久々に高校時代の部活の友人2人と旅行に行った。四国の田舎町で育った私たちはそれぞれ別の土地の大学に進学したが、離れてからも時々会っていた。しかしコロナが流行ってからというものの、当たり前のように会うこともなかった。

とはいえ現代は便利なもので、SNSを通じてお互いの生存はなんとなく確認していた。友人2人はSNSを頻繁に更新する方ではなかったが、私が大学在学中に急にラッパーになっていたり、新卒で入社した会社を1年足らずで辞めてWeb制作のフリーランスになっていたり、コロナ禍でも必死にクラブで音楽活動を続けたりする旨のSNS投稿は、必ず閲覧されていた。

たまに2人と連絡を取ると「都会に出てパリピになった」なんて笑われたが、決まって「そんなことないよ」と笑って返したのだった。

◎          ◎

旅行の行き先はというと、関西の温泉。慣れないフリーランスの仕事をこなしつつ、オールナイトでクラブに通うという多忙なスケジュールをサバイブする私にとって、温泉は最高の旅先だった。

別に何をするわけでもなく、3人で温泉旅館に泊まった。”温泉卓球がついている”という理由で選んだ宿だったが、いざ受付で「本日、卓球の予約はゼロなのでいつでもご利用いただけますが、何時になさいますか」と聞かれると、温泉卓球で浮かれていたのは私たちだけだったのかと思い、少し恥ずかしかった。ちょっと笑いながらも卓球台の予約を入れて、それこそ高校の授業ぶりの卓球を楽しんだ。

湯船は、普段表に出ない何かを引き出すと思う。私は歌詞を書くときも、家の風呂に入っている時が多い。約4年ぶりに会った友人2人と湯船に浸かりながら、それから上がった後も色々話した。普段は人にしないパートナーの話とか、全く知らなかったお互いの仕事の話とか。

でも、何となく距離を感じた。その不安を掻き消すかのように、私は「だけどさ、2人とも変わってなくて安心したよ」と笑った。介護や保健の仕事に就いてマスクや消毒を徹底する友人たちと、いつかはラッパーとして売れるためにクラブで奔走する私。真面目にコツコツ働いて「鞄とか靴とか、一個は良い物を持っておきたいよね」と話す友人たちと、会社の仕事に馴染めずフリーランスとして不安定な日々を送る、ファストファッションを身にまとった私。

高校時代から本当に変わらずにいられたか自信はなかったが、友人2人は「それはこっちのセリフだよ」と少し笑った。

◎          ◎

その後も、修学旅行の夜みたいに遅くまで布団で話した。結局一番盛り上がったのは、今の私たちの話題じゃなくて高校時代の思い出の話だった。部活の同期のモノマネが面白かったとか、高校時代に3人で行った旅行の話とかで大笑いした。

過去の話でしか笑えないことが、私はなんだか寂しかった。遠く離れた距離が、会わなかった時間が、コロナが流行ったというただそれだけのことが、私たちを過去の話でしか笑えない関係に変えてしまったのか。それとも、”その時叶えたい夢を叶えようとする”そんな自分が変わらないようにしていた私だけが、変わっていく時代に取り残されていったのか。友人2人は、私よりもずっと大人に見えた。