「趣味はカフェ巡りです」(ただし、コーヒーは飲めませんが…)それが私の定番の自己紹介だった。コーヒーの味が苦手、というよりも一人暮らしを始めるまでは、正直言ってあまり飲んだことがなかったという方が正しい。

両親はコーヒーが好きだったけれど、私にコーヒーを飲むことを勧めることはなかった。「まだ、あなたには苦いだろうから」とか「苦いよ」と言われて出されるココアや紅茶は、私自身よりも、私をずっと子供として見ている様なそして、そうあって欲しいと言われているような、求められているような気持ちになった。

私はそれに応えるように、コーヒーを飲んでこなかった。なんとなく「苦い」という情報があったので、「苦いから苦手」という事にしていた。でも大体、こういう時は「親にそう言われたから」という事が多いよな、とも気づいていた。

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ある日、「○○はコーヒーなんでムリなの?」と、友達に学食で聞かれた。ここで「苦いから苦手」と言ってしまおうかとも思ったけど、 実は……と素直に打ち明けた。

意思のない子と引かれてしまうのではないかつまらない子と思われないか。という後悔が私を襲う中、「え、それは普通に勿体無い(笑)」というシンプルな答えが返ってきた。

「フツウニモッタイナイ」
本当にそうだ。期待に応えなきゃ、という気持ちが私なりにあって、もったいない事ばかりしてきたのかもしれない。そんな私に「え、てかさ、このまま行く?」と彼女は言った。

夜の19時とかそのくらいだった。夜の外出に、それにすらドキドキしたけれど夜の人出は賑やかで、拭いきれない罪悪感と得体の知れない開放感は今でも忘れられない。

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広瀬通駅で降り、飲み屋の灯りが灯る中「お姉さん達飲んでいきませんか?」「いっぱいどうすか?いっぱいだけ」そんなメニューの波を掻き分ける。入学式の後のサークルの勧誘みたいだな…と思っていたのを思い出す。ちょっと怖そうな人もいて(笑)ここは都会だ、と思っているとそのカフェに着いた。

こじんまりとしていて 大きなポスターが店の奥にあり、ラストオーダーが近かった。私はコーヒーと、タコライスを。そして、友達はモヒートとポパイライスを頼んだ。「モヒート飲めるんだね?」と思わず言ったら、「だってもうハタチ超えてるじゃん」と言われた。そうだよな、と思った。

そうこうしているうちに、運ばれてきたコーヒーとタコライス。モヒートと、ポパイライス。

「飲んでみなよ、なんも入れないでまず」と言われた私は、少し緊張しながら その香りのいい、黒い、液体をストローで吸い込む。「おいしい」と思った。苦いけど、香りがよくて お砂糖も、ミルクもいらなかった。

「おーよかったじゃん」と馬鹿にするでも冷やかすでもなくその瞬間を友人は見届けた。食事も雰囲気も、コーヒーも。全てが美味しくて、コーヒーの香りが、私を正式に大人になったような気持ちにさせた。

次の日から、その反動とでもいうようにコーヒーにハマった。けれど、その日のコーヒーとタコライスの写真、そして新しくできた友達の写真を添えて「コーヒー飲めるようになった!」と母親にLINEで送ってしまう自分もまだいるみたいだ、と思った。あくまでもそれがきっかけ、みたいに装って。

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今となってはコーヒーばかり飲んでいる。 毎日、気がつくと飲んでいるくらいあたりまえになったけれど、1番最初の、あの夜に、あの場所で飲んだコーヒーが、いつだって1番美味しい。