金銭的な理由で大学進学は諦めた。
授業態度と学校の成績は良かったので、推薦で進学できるのではないかと思っていたが両親は反対。
奨学金も「借金だから」という理由で説明会さえ参加を拒否されていた。
片道30分、自転車をこいで帰宅。
玄関を開けると母が焼いているのであろう、アップルパイの香りがした。
「おかえり、ちょうどアップルパイが焼けたよ!」
この人が働いてくれたら。
ずっと専業主婦の母に私は内心いら立っていた。
◎ ◎
今なら仕方ないとわかる。
父は転勤族で最短で半年で転勤の辞令が出た。
母はいつも頼れる親戚も知り合いもいない土地で私と年子の妹の世話をしていた。
いつかまた働きたいと思い家事育児の合間に調理師免許を取得したものの、なかなか定職には結びつかなかったようだ。
その代わり、常に家事は完ぺきだった。
料理はお菓子を含め基本的にすべて手作り。
きれい好きな性格もあって洗濯も掃除も毎日していた。
お恥ずかしい話ながら、母の手伝いはしていたがメインは母だったので私はほとんど家事をしたことがなかった。
◎ ◎
私は子供に希望の進学をさせてあげたい。
そう思っていたから、就職先はそこそこ給料のいい会社を選び、貯金を趣味にしていた。
でも私は母に似てしまったようだ。
好きになった人は転勤がある職種で、帯同しパートを始めたものの職場になじめなかったこと、不妊治療との両立ができなかったこと、転勤先に友人がおらず息抜きができなかったことから体調を崩した。
すぐに子供を授かれたので良かったものの、私は母と同じ専業主婦になってしまった。
娘をおんぶしながら食器を洗っていると、たびたび考えてしまう。
彼女も私に対して「こいつが働いていれば…」と思う日が来るのだろうか。
◎ ◎
専業主婦になってわかったことが一つある。
家事は給料が出なのに重労働ということだ。
主人は新幹線の運転士をしており、アルコール検査に引っかかってしまうため出勤前に味噌やパンなどの発酵食品を食べることができない。
また担当する新幹線が毎回異なるため、出勤時間も異なる。
禁止されている食べ物を避けた献立を考え、お弁当を作り、娘の離乳食、歯磨き(これが一番大変)、掃除や洗濯など1日があっという間に過ぎていく。
家族が多い人や、同様に鉄道マンのご主人をお持ちの奥様がどうやって生活しているのか真剣に教えてほしいくらい。
おそらく来年また転勤になるため今年は保育園の見学や職探しを見送ったが、頼れる身内もいないこの状態で働くのは、今の私には無理だった。
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今の時代女性も働くのが当たり前で、こんなことを言うのはやる気がないだけと思われそうだが、なんだかんだ家事をするのは楽しい。
人生でほとんどない赤ちゃん期の娘を見ていられること、夫にありがとうといわれること。
スポットライトはあたらないけれど、内助の功が私にはあっていたようだ。
サッカー選手を夢見た少年がみな、選手になれるわけではないように。
サポーターやトレーナーが主人公の物語もあっていいはず。
当然一生無職のつもりはないし、ファイナンシャルプランナーさんが言うにはしばらくの間は生活できるようなので、短い期間と割り切って家事と育児に全力投球しようと思う。
働いて自由に使えるお金が欲しい、将来が不安等、多少のジレンマはあるものの、今日もまた家事をしている。