私は高校卒業後、ホテルの専門学校へ進学するため上京した。その専門学校は授業のほかに連携しているホテルのレストランで朝食営業、もしくはディナー営業の実習を二年間みっちり行い、その実習時間も単位になるという学校だった。実習先は自分で選べないので残業が多い忙しいホテルの可能性もあるし、とてもホワイトで働きやすいホテルに配属される可能性もある。その配属は学校の先生が適性を見て振り分けることになっていた。

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福島の田舎から上京し、右も左もわからず不安ばかりだったのに私の実習先はホテルの朝食営業に配属されてしまった。朝五時半から十時半まで働き、午後から夕方五時まで学校というハードスケジュールだった。毎日朝四時起きというとんでもない早起きをし、慣れない電車に乗って出勤するのは初めての一人暮らしの私にはあまりにも大変すぎた。私は遅刻しないように、少し早めに家を出て、実習先が同じになった専門学校の同期と毎日朝食を一緒に食べてから出勤するようにしていた。それなら寝坊しても朝ごはんを食べ損ねるだけで、実習に遅刻することはない。朝食といっても実習先の賄いで、毎朝パンとウインナー、スクランブルエッグというホテルで出しているメニューと同じものだった。

しかし初めての一人暮らし、慣れない実習に東京での生活。自炊なんてままならずいつもコンビニのご飯を食べていた私は朝ごはんにしっかりしたものを食べられるだけで本当に嬉しかった。それに何よりも誰かと一緒に食べるという時間が本当に安心できたのだ。

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週に五日はシフトを入れられていたので同期とはほぼ毎日シフトが被っていたし、休日なんて数えるほどしかなかったため、私の実習先が異動になるまでの半年間はほとんど毎日二人で朝食を食べてから出勤していた。たまの休みが被るとその前日に同期が私の家に泊まりにきていたので、私は朝ごはんを頑張って振舞っていた。

ある日些細なことでその同期と喧嘩をした。喧嘩と言っても言い合いとかではなく、意見の食い違いから学校や実習先で会っても最低限の会話しかしないようになった。きっかけは同期のクラブ通いだった。同期が渋谷のクラブに通うようになり次第に変わっていってしまったことが心配だった。クラブは悪いところではないし、行くこと自体には反対はしない。それにいい大人だから私が口を出すものでもなかったが、まじめだった同期は授業を休むようになり、実習中も眠そうで明らかにやる気のなさそうな勤務態度だった。

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程よく遊ぶのはいいが、最近あまりにものめり込みすぎじゃないのか?私が軽く伝えたら同期は怒ってしまった。確かに私が踏み込む必要はないし、自習をサボっているわけではない。しかしこの変わりようを見て、このまま怠惰な生活になってしまうのではないかと、どうしても心配になってしまった。

同期と気まずくなってからも朝食は一緒に食べ続けた。すると次第に会話するようになり、クラブに行く頻度も減っていき気づけば、今までのような同期に戻っていた。その時私は話をしなくても、一緒にご飯を食べるだけで通じ合えるような特別な力があるのかもしれないと思った。

それから半年後、私は実習先が異動になったが変わらず休日は私の家に泊まりにきて一緒にご飯を食べていた。社会人になり同期は仙台に就職したため離れてしまったが年に二回は遊ぶくらい今でも仲がいい。色々あった大変な上京況一年目だったが、あの朝食の時間があったから自分の芯がぶれずに実習を乗り越えられたのではないかと思っている。私の中でとても大切な時間だった。