「自分への誕生日プレゼントはネックレスにしよう」
そう思い立ったのは、22歳の夏。自分の誕生日を半月後に控えた時のことだった。
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ネックレスといっても、特別欲しいブランドがあったわけでも、気になったデザインが目に留まったわけでもなく、ただ単純に「いつでも身に着けていられる自分の分身」のようなものが欲しかったのだ。ファッションに無頓着な私には、その当時お気に入りのアクセサリーが無く、出かけるときになんとなく「首元が少し寂しいかも」なんてことを時々思う程度だった。
そんな気持ちしか芽生えなかった私が、なぜ自分の分身にアクセサリーを選んだのか。それは、いつか自分の身に何かが起こった時、誰かがそのアクセサリーを「私」として、私の代わりに持ち続けてくれるかもしれない、ということを願ったのだ。もちろん、そのようにして所有してくれる人は、お互いに「特別な存在」であることにちがいない。それが家族なのか恋人なのか、その時になってみなければわからないことではあるが。
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人生の終焉について考えるには、22歳という年齢はあまりにも若い。しかしながら、私の母は36歳という若さでこの世を去っているのだ。人生いつなにが起こるかわからない。お守り且つ自分の分身になるものと考えた時、自分の誕生日である8月22日の誕生石「カイヤナイト」を使ったネックレスにしようと思いついた。
カイヤナイトは、深海のように青く美しく、神秘的な石である。石言葉は「自立心・純粋」などがあり、人生の岐路に立った時、勇気と自信を与え、導いてくれるというものだった。ネットでカイヤナイトのネックレスを探す中、「せっかく自分へのプレゼントにするなら、世界に1つだけのものにしよう」と思いつき、既製品ではなくオーダーメイドを依頼することにした。その方がネックレスへの愛着も更に湧くと考えたのだ。
数日後、家から徒歩圏内にあるシルバーアクセサリーの店へと向かった。その店でアクセサリーを作ってもらったことがあるという人が周りにおり、その品を見せてもらったことがあったため、依頼をするならその店にしようと決めていた。
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あらかじめお店にカイヤナイトとネックレス完成時のイメージ画像は送ってあったため、オーダーはスムーズに進んだ。完成まで数日要するが、無事誕生日までには間に合うとのことだった。
月ごとの誕生石があることは以前から知っていたが、日付ごとにも誕生石があることは今回のネックレス作りで初めて知った。それは店主の方も同じようだったらしく、
「カイヤナイトが誕生石なんて素敵ですね」という言葉をかけられた。それほど見た目が美しく、何か不思議なパワーを秘めているような、そんな石だった。
誕生日まで1週間を切ったころ、ネックレスが完成したとの連絡を受け、仕事帰りに取りに向かった。店に入ると、奥で作業をしている店主の姿がわずかに見えた。
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「すみません、お願いしていたカイヤナイトのネックレスを取りに来たのですが …」カウンター越しに声を掛けると、店主はこちらに気づき、満面の笑みでその品を運んできた。
「とても綺麗な品が完成しました。どうぞ近くで見てみてください」
店主はそう言うと、私の目の前に青く輝くカイヤナイトのネックレスを差しだした。どの角度から見ても息を飲むほどの美しさ。光沢を纏った表面、そして丸みを帯びたフォルム。比較的小さなサイズでオーダーしていたが、石は凛々しさを見事に放っていた。
おそるおろる首元に当ててみる。首に馴染みながらも、存在感をしっかり放つその石に、強さを感じた瞬間だった。
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あれから6年。カイヤナイトは今も私の手元にある。神秘的な見た目も全く変わらない。何かに悩んだとき、私はその石をギュッと握る。そうすると少し安心するからだ。
石のパワーについては正直よくわからない。カイヤナイトが導いてくれているのか、それとも、石を信じる私の心が私を突き動かしているのか、どちらにせよ、私のお守りであり、これからも私の分身であることには変わりない。そしていつの日か、私の分身としてこの石を誰かが持ち続けてくれることを祈っている。