「仕事するの?娘ちゃん小さいし無理せず」
「俺も家建てたいけど、どこにいつ転勤になるかわかんない」
「したくないわけじゃないけど、俺は子供の世話はできない」
女性が仕事をするのにぶつかる壁と言ったら保育園に入れないとか、小1の壁とかだと思っていた。でもそれは「あくまで」一般的なご家庭のお話。
うちの場合は、コイツ(夫)かもしれない。
夫は転勤族だ。転勤の範囲は東京から大阪までで、出身地や家族構成は関係ない。だいたい3年が目安らしいが、期間は決まっていない。
辞令により私たちは3年前さいたま市から名古屋市へ(望まない)引っ越しをした。夫婦2人とも埼玉に実家があるため、彼は関東に帰ろうと東京へ異動希望を出している。しかし人事にとってコマの一つでしかない社員の声は届かないようだ。
実際に進路希望表の異動希望欄は全くと言っていいほど無視されたと聞く。そのせいで奥さんの仕事や子供の教育を優先した社員の退職が続出。現場は人不足にあえいでいる。
「お前もやめちまえ」
そう言ってやりたいけど、私には力はない。
◎ ◎
3年前彼の転勤に帯同しなければ、私はまだ仕事を続けていた。パートだったが人間関係も良く、休みの都合がつきやすい最高の職場だった。産休育休制度もしっかりしており、退職者や体調不良による休職者は聞いたことがなかった。
ずっとあそこで働いていたら、もしくは再度あそこで雇っていただけたら、子育てと仕事の両立ができるのではないか。実際に働いている方に怒られそうだが、そう思わせてくれる会社だったことに間違いはない。
あの時転勤に帯同しなければ良かったのだが、新婚2年目で夫と離れがたかったし、子供も欲しかったし、二重生活をするよりは貯金ができると考えた結果だった。
長く働いて時給を上げたい、欲を言えばもう一度正社員になりたい。娘がまだ小さいので週3くらいのパートから始めたい。きょうだいがいて良かったと思うから、娘にも弟妹を作ってあげたい。私にも希望や夢がある。だが現実は厳しい。
夫の転勤が直近で今年の9月にあるから長期の仕事は採用してもらえないかもしれない。短期の仕事も考えたが、子供の保育園が見つからない。子供を保育園に預けられなければ仕事ができない。
専業主婦という「0」から有職者という「1」になるのは本当に大変だと聞く。近くに頼れる親どころか、徹夜を含む泊まり勤務で夫さえもいない。その夫も娘の子育てにはいまいち他人事というか、「俺は仕事!お前が家事育児!」というスタンスが見え隠れしている。
仕事がダメなら家族計画を先に済ませようと思ったが、2人目に関しては「今は無理」とのこと。子育てという大義名分はあるものの、名古屋の社宅で今、私は動けずにいる。
◎ ◎
ここまで言い訳を書き連ねてしまったが、私には作戦がある。
題して「教育作戦」。
親として、子供に教育を受けさせるのは義務だ。夫は自分の転勤の時期や異動先はわからないが、娘にはいずれ幼稚園に通わせることを希望している。3年保育で幼稚園に通わせるなら来年には見学や願書の提出が必須。もし今年中に辞令が出なかったり、3年保育をあきらめたりしたとしても再来年には2年保育の手続きが待っている。
再来年辞令が出て2年保育の準備がぱぁになったら娘は1年しか幼稚園に通えない。名古屋で幼稚園に通わせるのもいいが、面接をして学用品を買いそろえ4月から入園となったタイミングで辞令が出たらと考えると気が狂いそうになる。
ならば実家がある埼玉に家を買い、私と娘だけで帰ろうと。家が買える、娘は幼稚園に通える、近くに親がいる、そして私はうまくいけば働ける。わからないのは、彼の転勤だけでいい。
とはいっても当然お金と信用と時間が必要なので、家をすぐに買ったり建てたりはできない。幼稚園だって落ちるかもしれないし、親の介護が必要になるかもしれない。作戦がうまくいったところで、100%働けるかはわからない。
でも一つわかっているのは、「もう一度働きたい」という私の気持ち。
この気持ちを密かな軸として、私は夫という壁に挑んでいく。