おそらくこの世界のほとんどの人が抱えている「コンプレックス」。わたしは童顔で身長が低いことにとても激しいコンプレックスを抱いていた。し、正直に言うと今も抱いている。丸い顔に身長148センチの小柄な体。せめて目ぐらいは大きな二重が欲しかったけれど、イジワルな神様からこの腫れぼったい一重をもらった。

そんなわたしには、およそ30年という短い人生で「キャリアの壁」を強く感じたことがある。
札幌の私立大学を卒業したわたしは、そのまま地元で就職した。就職先に選んだのは不動産の営業職。なぜこの会社を選んだかというと、北海道からは絶対に出たくなかったし、頑張ったら頑張った分だけ成果が出るという営業職には、大きな夢があると勝手に思っていたから。

◎          ◎ 

わたしが配属された店舗は「何よりも場数がものを言う」という教育だったので、就職してすぐに自分の顧客を持つことになった。初めての顧客は40代半ばの新婚夫婦。「今回、担当させていただくことになった○○と申します」とわたしが挨拶すると、夫婦は顔を見合わせて渋い顔に。そして「もっと頼れそうな人っていないの?ちょっと若すぎない?」と、隣にいた同期のスタッフに一言。

わたしはどういう顔をしていいか分からずに、夫婦を見つめることしかできなかった。結局、その夫婦は上司が対応することになった。

わたしはショックを受けた。
頼れるってなんだろう?若いってだめなのかな?
もっと見た目が大人っぽかったらこの夫婦は安心して家探しをできていたのかな?
本当にいろんなことを考えた。
考えて考えて考えて……..そしてわたしはあることに気づいた。
「これって、考えるだけむだじゃない?」

いくら考えても年齢はごまかせないし、童顔なのが自分。申し訳ないけど、それを覆すことなんて到底できない。

そういうマインドになってから、自分の弱みを探すより、自分の魅力を自力で引き出すことを考えた。確かにわたしは一見、頼りないかもしれない。だったら、それを補うものを磨こう。

◎          ◎ 

そして自己分析に自己分析を重ねて、たどり着いた自分の最大の魅力たちがこちら。
①威圧感がない②なんでも言いやすい③常に笑ってる
さらに、この「わたしの魅力3拍子」を活かせるのは「トーク術」だと思い、深夜のトーク番組などを見漁ってトーク力をぴかぴかに磨いた。

物件までご案内する道中の車内では、ぴかぴかに磨いたトーク力で、おもしろエピソードをいくつか披露した。トーク自体はほんとにくだらないもの。イチゴケーキを作ろうと思って材料を買ってきたら、肝心なイチゴを買い忘れた話とか、猫のケンカに巻き込まれた話とか。

今、思い出しても本当にくだらないけど、そうしてわたしはお客さんとの心の距離を埋めていった。

おかげで車内はいつも爆笑の渦。すると、とんとん拍子に営業成績も上がり、お客さんがまた新しいお客さんを紹介してくれるように。そう、わたしのファンができたのだ。
こうしてわたしは会社でのポジションを勝ち取り、キャリアの壁を自らの力で乗り越えることができた。

キャリアの壁を感じたことで得た知見ももちろんある。それは「営業は自分を売る仕事」ということ。

わたしは不動産屋に勤めていたので、入社した当初は「家を売ること」が仕事だと思っていた。それはけっして間違ってはいないけれど、「家を売る」ということは「自分を売った」その先にあるんだと思う。自分を売ることができたら、おのずと自分のファンがついてくる。

◎          ◎ 

最後に。コンプレックスを抱えている人や、いつも人と比較して卑屈になっている人に伝えたい。
ずっと悩んで、ずっと考えても、結局は「しょうがない」ことが多い。
嫌なことは考えることをやめて、自分の好きなことや魅力的なところに目を移すことで、見える世界や気持ちもずいぶん変わる。

すると、「自分はまだまだ捨てたもんじゃない」。そう思えるはず。絶対、思える。

この記事を読んだみなさんが、少しでも生きやすくなりますように。