小学校卒業を控えた3月の初め、いつも一緒だった2人のうちの1人が3人お揃いのキーホルダーをくれた。3人のうち私だけがみんなとは違う私立中学に行くと決まっていたから、離れても親友だという印だと彼女は言った。3人でキーホルダーを掲げてずっと友達だとハグをした。

だから私は中学校でクラスの女子に避けられても、気の合う同級生がいなくても耐えられた。私は独りではないのだと、キーホルダーを握りしめた。
中学3年生になると、同じ小学校だった2人と同じくらい大切な、親友と呼べる人ができた。中学の誰にも知られないよう、ひっそりと恋もした。他の人とも他愛無い話ができるようになった。

いつの間にかキーホルダーを握りしめなければやり過ごせない時期は去っていた。けれど、鍵につけたキーホルダーは、毎日、学校へ行く時、帰宅した時、私の心をほぐす大切なものであることに変わりはなかった。

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高校を卒業し、何でもない身軽さにふわふわと不思議な気持ちを抱いていた3月、ひょんなことからあの2人の連絡先を知った。当時小学生だった私たちは互いに自分の携帯電話を持っておらず、結局連絡する術を持たないままに6年が経ってしまったのだった。

連絡先を知った私達はすぐに会う約束をした。2人は中学は同じだったものの、別の高校に通ったこともあり、ほぼ3年ぶりの再会だったらしい。私にとっては6年だ。

イケイケのJKだったらどうしよう。異なる環境で6年を過ごした私は、2人と小学生の頃のように楽しく話せるだろうか。不安と楽しみな気持ちが拮抗したまま待ち合わせ場所に着いた。

きょろきょろ辺りを見回していると背中に強い衝撃を受けた。次いで「なつめー」と笑う朗らかなソプラノ。驚きと同時に懐かしい感覚に襲われた。

親友のうちの1人、歌声が綺麗で、一見おとなしそうなのに話してみると天然な子。そのギャップに最初は驚いたけれど、そんなところが私は好きだった。久しぶりとひとしきり騒ぎ終わる頃、もう1人もやってきた。

ぱっと見ただけでは気が付かないほど、その子は垢抜けていた。小学生の頃はメガネに耳を隠した重めのボブがトレードマークの守ってあげたくなるような女の子だった。それが、今はコンタクトは当たり前。そこにベリーショートのこざっぱりした髪、ボーイッシュな服装も相まって、女の子達にモテそうな雰囲気を醸し出していた。

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3人が揃うのは6年ぶり。変わっていてもおかしくない。私もきっと、自分がわからないだけで変わっているのだろう。
同じ中学に進んだ2人にしかわからない同級生の名前。互いに説明しないとわからない高校の部活や授業などの話。昔は当たり前のように通じていた「こそあど言葉」が使えなくなり、些細なエピソードのひとつひとつに驚いた。
元々同じ小学校に通っていただけに、入学を拒まれることのない公立中学校に行かなかっただけに、2人の話の全てが、私が選ばなかった道の続きに思えて仕方がなかった。

「ねえ、そういえばこれ覚えてる?」

寂しさを紛らわすように、鍵につけたキーホルダーを見せた。3人だけが知っているこのキーホルダーの話をすれば、またあの頃と同じ時間を過ごせるかもしれないと思った。

「それ、なんだっけ。見覚えはあるんだけど」

キーホルダーをくれた元ボブの子が言った。

「ああ、それ宝箱にずっと入れてあるから大切なものなんだろうってとってはおいたけど、この3人でおそろいのやつか!」

ソプラノが言った。

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もう、戻れないことを確信した瞬間だった。戻るなんて無理だってわかってはいたけれど、私がそうであったように、2人にとっても、このキーホルダーが心の支えであって欲しかった。でも、それは私のエゴだ。
2人は、私が選ばなかった道の先で、別の支えを見つけ、あるいは支えを必要としないくらい自分に合った道を見つけ、ここにいる。
少し寂しいけれど仕方ない。

戻ることはできないから、私は、このキーホルダーを宝箱にしまうのでもなく、心の奥にしまうのでもなく、忘れずにいることを選ぼう。
そう決めて、また会おうねといつ果たせるのか分からない約束をして、それぞれの選んだ道に戻った。