大バトル後平気で熟睡する母を見て「母と私は別の存在」と腑に落ちた
物心ついた私に声を大にして言いたいことがある！
いいか、私よ！
お母さんから生まれた私はお母さんの分身ではなくて、全く別の人間だ！リンゴとミカンが同じ味じゃないように！私とお母さんだって同じじゃない！それでいいんだ！
◎ ◎
私は物心ついたころから母親の顔色を見て育った。
一般サラリーマン家庭、夫婦仲はほどほどに弟まで授かって……。４人家族、絵に描いたような一般家庭。時折母が起こすヒステリーの爆風を除けば概ね幸せな家庭だ。
だが、私にとってそのヒステリーが何よりも恐ろしかった。まるで地雷原で強制的にマラソンさせられているようで、ソワソワというかオロオロというか常に焦りと不安を抱えて過ごしていたのを覚えている。勿論楽しいこともあっただろうが、幼い記憶を思い返せばこういった感情ばかりだ。
母の理解の範囲内でいようとし続けた。母と私は同じであると、母の期待は私の希望であると思い込んでいた。その結果、幼い私は無意識的に諦め癖がついた。人に自分のことを決めてもらうことを望むようになった。
この幼少期の感情たちは軽い強迫観念障害とも言える行動を毎日私にとらせている。
火元のチェックに５分、窓の施錠確認に５分、冷蔵庫の扉は閉めたか、余計なコンセントは抜いたか？カギは締まっているか１０回ガチャガチャして確認……。よし出発！となった頃には２０分が経過。その後、２０分経過したことで何か変わっているかもしれないとまた全てのチェックをしちゃったり。
特に不安なことがある時はこんな具合で私の出発はどんどん遅れていく。
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社会人として働きだしていたある日、私はある人と出会った。
当時世間では自己啓発がやたら騒がれ出していて知ってはいたが鼻で笑うかのように見下していた。その人は自己啓発をしていたわけではないが、言っていることは自己啓発そのもの。本と違うのはそうやって生きてきた人だということだった。
彼の言葉は何度も私の確信を突いて、私は何も言えなくなったのを覚えている。そうしてやっと私は母を基準として全てを考えていたことに気が付いた。
そこから母と私のバトルが始まった。地雷原を怖がりながら走るのではなく敢えて踏みに行くスタイルで幼少期の私よりも子供らしく爆発を起こしていった。
リンゴが飛んだ、雑誌が飛んだ、ミカンが踏み潰され、ティッシュが舞った。
毎度戦場は荒れた。最初の内、私は母に対する反抗の言葉を持っておらず喋ろうとすれば泣いて声が出なかったが、いつの間にか声は出るようになっていた。
ただ、こんなことを続けて何になるのか……。母を傷つけ自分も傷つけて何になるんだ。大喧嘩した後はいつも部屋に籠って後悔した。
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が、あるきっかけで私は吹っ切れた。
その日も私の人生について母が口を出し私が言葉を返しという戦いが起こったわけだが、私はかなり憔悴して、もうだめかもしれないと深夜部屋でワンワン泣いた。そしてフラフラとトイレに向かった際、私は信じられないものを見る。
母が寝室で眠っていたのだ！
そう、普通に寝てた。就寝していた。いつも通り布団を敷いてクゥクゥ寝息まで立てて気持ちよさそうに……！むにゃむにゃじゃねーんだよ。こっちは泣いてんのに！！
そこで私は肩の力が抜けた。
なんだ、母にとって今日の戦いはこんなもんなのか。私は寝られないくらいのダメージを受けたのにそちら軽症で？よござんした。思わず吹き出してしまって、そこで初めて母と私は違うと分かった。頭で理解するのではなく腑に落ちるレベルで分かった。
そこから母に分かってもらおうとするのはやめた。私の決めたことは母に絶対言わないと決めた。口出してくるしその度イラつく私が見えるから。それがたとえ母の愛だと言われても結構です、要りません。
その代わり母を思いきり甘やかすことにした。好きなケーキを買ってあげたりアクセサリーを買ってあげたり。「いつもありがとよ」の気持ちを込めて無償の愛も有償の愛も送り続けた。
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すると母はある時ポツリとこう言った。
「私、分かった。真子は私の“モノ”じゃなくて1人の個なんだって」
その一言を言った後から、母は自分の気持ちを教えてくれるようになった。そこには私の理解に及ばない母の苦労があった。
母は自分の母……私からすれば祖母からの愛をあまり受けられずネグレクトに近い環境で育った、なので自分の中に理想の母親像が強烈にあり、その理想に近づくために毎日必死に母親をしていた。正解も分からずもがき続けるそんな状況で当時の母は、今の私の年齢で私と弟を育ててくれていた。
子供の世界から見れば母が全てだったけど、母の世界からは色々なしがらみがあったんだ。大人になった私ならそれが分かる。私は母をこれからも目一杯労っていくことを決めた。これも母には言わない。絶対調子乗るから。
でも最後に、昔の母に声を大にして言いたいことがある。
その状況下で、よくぞ私を産んでくれた！ありがとう！！
