誕生日のお祝いに欠かせないもの、わたしの中では、それは絶対にケーキだ。でも、ケーキといっても何でもいい訳ではない。

わたしが認める誕生日ケーキは、真っ白で、丸くて、いちごが乗っているもののみ。子どもの頃に家族が必ず用意してくれていたからなのか、ケーキ自体が好きと言うよりは、慣習を重んじているに近い気がする。未だにこの強迫観念に囚われている。

社会人になってやっと白くなくても許せるくらいにはなってきたが、できればカットされているケーキでも自分の分は白くあって欲しい。

祝ってもらうくせにわがままだと思われたくないので自分からは言い出せないが、ケーキの希望を聞かれた時は必ず申告しているこだわりだ。

こんなに誕生日にはケーキを望んでいるわたしだが、ケーキとわたしには昔から確執がある。なぜか高確率ですんなり幸せに食べることができないのだ。というわけで、わたしとケーキで特に印象に残っている思い出について久々に振り返ってみたい。

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小学校4年生。その日は母が残業で日付を跨ぐ頃にしか帰って来られない日だった。母からケーキを食べるタイミングについて、誕生日の前後の家族全員揃う日か、母がいなくても当日に食べたいか確認されていた。迷ったが、誕生日に食べることにして母の分は取っておくと約束した。

当日、わたしはとっても嬉しくて自分がこの世の主人公であるかのように振る舞っていたが、事件は夕ご飯の時に起きた。

父、祖父、祖母、弟でカレーを食べながらケーキへの期待を膨らませていると、なぜか父の機嫌が悪い。どうやら祖母と喧嘩をしているようだった。嫌な空気を感じながら主人公としてカレーを食べていると、食卓で父と祖母が口論を始めた。理由はよくわからなかったがどちらも滅茶苦茶キレていた。

すると次の瞬間、父は突然立ち上がり食卓をひっくり返して怒鳴った。呆然としたが、我に帰ると居間はカレーと割れた皿で足の踏み場も無くなっていた。それからしばらく記憶がないが、気づいたら父が1人で皿の破片を集めていて「ごめんな…」と言った。

もうどうしていいのかわからなくてただただ泣いた。いろんな意味でケーキを食べている場合ではなく、次の日母になぜ全員ケーキを食べていないのか聞かれたが、昨夜の出来事は言えなかった。次の日にちょっと水っぽくなったケーキをみんなで食べた。何が父をあそこまで怒らせたのか、いまだにわからない。

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大学3年生。当時付き合っていた彼氏が誕生日を祝ってくれることになった。前の年は、女に不慣れだからと言う理由で祝ってもらえなかったので嬉しさもひとしおだった。

彼氏はすでに社会人になり離れたところに住んでいた。「何か欲しいものある?」と聞かれたが、女に不慣れな人にプレゼントは頼めず、「プレゼントはいらないから、白くて丸いいちごが乗ってるケーキが食べたい!」と言った。彼氏は「そんなんでいいならいくらでも買ってやるよ、社会人だし」と女に不慣れそうな返事をしていた。

祝ってもらうはずの日、彼氏は昼頃わたしの家にやってきたがすぐに大学時代の部活に顔を出してくると言い残して颯爽と消えた。わたしはバイトも休んで楽しみにしていたのに。そしてそのまま夜まで帰ってこなかった。夜ご飯を一緒に作って食べたかったのに、仕方がないので1人で食パンをかじって待っていた。

やっと帰ってきたかと思ったら、意気揚々と「後輩に飯奢ってきた!社会人だし」と抜かした。こいつは女に不慣れなんだ、と自分に言い聞かせてギリギリよかったねと言えたがあまりに楽しそうに話してくるので耐えられなくなって、「約束、覚えてる?」と聞くと、心当たりがない様子で慌てまくっていた。

わたしがケーキ…と呟くと「ケーキ…!ごめんすっかり忘れてた。彼氏失格だな…」としょんぼりし出した。失格ではあったが一応優しい言葉をかけると、奴は切り替えてテレビを見出した。時々芸人に笑されている。その後ろ姿を見ていたら悔しさが爆発し、号泣してしまった。振り返って奴は「なんで泣いてるの!?」と言った。まもなく破局した。

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社会人数年目。当時付き合っていた女慣れしている彼氏が誕生日を祝ってくれることになった。

わたしの誕生日は夏で、ある日買い物をしていて某アイスクリーム屋さんの前を通りかかったとき、ポスターのアイスケーキが目に入った。子どもの頃母にどれだけ頼んでも買ってもらえなかったアイスケーキ。今となっては当時の母の気持ちがわかりすぎるが、もう自分のお金で買えるようになったし、たとえ食べきれなくても冷凍庫の空き状況と相談できる。社会人だし。

元々ケーキへのこだわりは伝えていたが、結局アイスケーキを食べることなく大人になった話を彼氏にしたところ「今年の誕生日はアイスケーキにするのはどう?子どもの頃の夢叶えてあげる!」と言ってくれた。さすが女慣れしている人は違う。本当に楽しみにしていた。

当日ケーキを取りに行くと言うのでついて行った。彼氏が車を止めたのは普通のケーキ屋さんだった。ここのケーキも美味しいけど、アイスケーキなんてあったのかな…と思いながらついていく。中身は彼氏だけ確認して受け取り帰宅した。

その後夕ご飯を食べ終わりケーキタイムに。ドキドキしながら待っていると彼氏が箱を持ってきてオープン!

……!?チョコケーキ……!

美味しかった。でも夜彼氏にバレないようにベッドで号泣した。

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……。自ら振り返ってみたもののつらい気持ちになってしまった。もはや何の話だか、お祝いの話なのかケーキの話なのか、男運がない話なのかよくわからなくなってしまったが、気合を入れてケーキを食べようと思うと毎年のように予想だにしない事件が発生するので、もはや自分の中でネタにしている。

ケーキにそんなつもりはないだろうけど、誕生日を祝うためにはケーキという手強い対戦相手が待っている。今年はどんなハプニングが起こるのだろうか。ゆっくりと生クリームを頬張れる誕生日にしたい。