今年は年賀状の数を減らした。これまで「こちらが出した時だけ返事来る人」に出すのをやめたのだ。うすうす感じていたが、こちらが出していないため返ってくることはなかった。スッキリした。

年末になり、出す出さない、とりあえず出す、をもう気にする必要もなくなった。

毎年、1年前に受けとったはがきを見ながら準備し、大みそかまでに投函していた。
年賀状は50枚くらい購入していたが、年齢が上がるにつれて喪中はがきが増えて余るようになっていた。

また数年前から定年や還暦を機に年賀状じまいをかねた、ご挨拶状の先輩もチラホラおられ、それを見て私もいろいろと考えるようになっていた。時代も令和になり、コロナ禍を経験し、さまざまなことが起こる変化を感じていた。昭和の堅苦しい考えから少しずつとかれ、徐々に手放せるようになっているのかもしれない。

社会人になり、学生時代のように知り合いが年々増えていくのと違い、年賀状が減ることには寂しさもあった。そしてあいさつは自分からと、義理堅くまめに出すようにしていた。

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自分はどちらかというと、年賀状を出すのが好きで、学生時代から、来年の年賀状の版画デザインや配色を考えるという、ものづくりを楽しんでいた。

自宅のイラスト本から、干支の気に入ったデザインを探し、雑誌の広告などを見て3色くらいで配色を考える。うす紙に鉛筆で下絵を描き、ひっくり返して下にカーボン紙を敷き、はがきサイズの版画板に貼りつけて反対になった下絵を上からなぞる。そして板に写った下絵を彫刻刀で少しずつサクサクと削っていく。

この一連の作業は、なかなか体力が必要なのだが、刷り上がった時の達成感と、年に一度、新年を迎える前のいい時間に思えた。

しかし今年は、メッセージを添えずに出す年賀状は減らしていい、と思えるようになった。
十分交流できた、ということではないだろうか。もしまたご縁があるなら、今はネット社会であり再びつながることは簡単ではないか。

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今年の年賀状を減らした別の理由もある。昨年から新しい出会いの場が増えたのだ。
年賀状のことを考えなくていい、やりとりのツールはSNSという若い世代とのつながりの場。

もともと仕事は事務職で新卒で入った会社を退職後、登録した派遣会社から紹介を受けて、3年ごとに新しい職場で働いていたが、次が見つからないまま、失業の状態で新年度に放り出された。そして不本意だったが今後を考える機会を得たのだ。

そして失業期間中に、ハローワークで案内のあった職業訓練コースの中から、Webデザインを勉強しようと応募したが、昨今かなりの人気コースとなっており、結局おばちゃんは、はじかれてしまった。

やってみたい気持ちはあったため、自腹でデザインを勉強しようとネット上で選んだオンラインスクールに入学した。オンラインスクールは初めての経験であり、入学後に分厚い封筒の資料が渡されるわけでもなく、説明会のあと、パソコンで入力して手続き完了。手ぶらで帰るときの戸惑いと不安といったらなかった。

スタートからして慣れない文化の中に入り、パソコンの設定やら登録、デザインツールの操作と、半泣きになりながらも、かなり奮闘した。今はスクールで学ぶことと、スクール生との交流をZoomで楽しんでいる。

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スクールでは私より10才以上は若い20代から40代の女性が中心に学んでいて、月に何度かは、大阪にある拠点で開催するイベントや自習室へ行き、スクール生と情報交換をする。

最初の頃の私は年齢差を気にして、少し離れた場所でひたすら自習をしていたが、となりの面白そうな会話に思わず入ってみたり、新しい制作ツールの話を聞かせてもらったりと、だんだんと入っていけるようになった。新しい学びにより、人生を変えようと悩んで決断した人たちの集まりで、みんな親切だった。

そしてこれまで持っていた思い込み、長い経験として活かせるのは事務職だけだ! これしか私にはない! と、がんじがらめになっていた私に、人にはさまざまな人生と生き方があるように、そこから多様な働き方があることを、多くのスクール生や卒業生が惜しみなく教えてくれた。

余裕のない給与で、友人に会うことさえ億劫になり、ただ先細りになっていた私の思考に、新しい広がりと視点を持たせてくれた。これが “ 新しい世界に飛び込む “ ということなのか。

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何よりこれまで、ワード、エクセル、パワポしか知らない、アナログにほっとする事務職の私が、デザインツールのフォトショップやイラストレーターを使い制作をしている。それを数年前の私は1ミリも予想していなかった。

そして今はさらにライティング、マーケティングにも興味を持っている。おそらく私の同年代の知人では聞いたことがなく、珍しい経験をしているのではないか。

新卒で入ったままの会社勤めの人生が続いていたら、今頃、定年後の人生について考え始める自分がいただろう。ゆったりした定年後、それは望めない。だから70歳を目標に働き続ける。それでいい。

人生の後半になり、こういう新しい経験に向かえた自分がうれしい。とにかく前を向いて歩いている。そんな新しい自分になれたことが何よりうれしい。そして、その3ミリくらいのきっかけの糸口を今後どうするかという、私次第の人生が待っている。