寝る前の習慣の一つにインスタを何となく開くというのがある。
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芸能人などの公式アカウントが先頭に来ているときはさらっと流し見してそのまま眠りにつくことができるが、週末の夜は眠れなくなる。中学生の時からかれこれ10年以上分の知り合いの日常か非日常かもわからない楽し気な写真がいつまでもいつまでも表示されるからだ。
知り合いの知り合いが私の知り合いだったり、もうすっかり連絡も取らなくなったあの子とあの子が飲みに行っていたり、10年間で広がった人間関係が凝縮されて次から次へと流れてくる。友達、彼氏、旦那、子ども、それぞれの人生が確かに進んでいることをたった数枚の写真から感じ取ることができる。
あの時になかったものをたくさん手にして、幸せか幸せじゃないかはわからないけど、確実に一歩ずつ人生を歩んでいることが伝わってくる。
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あの子と一緒に映っている子に見覚えがあると思ってタグ付けされたアカウントに飛ぶと、やっぱり私の知り合いでもあるあの子だったりして。そっか、この二人はまだ親交があるんだ、って発見したりして。他にも懐かしい知り合いの今が知りたくなって。その子のフォロー欄からまた更に知り合いを探し始めて。
その日に見つけたのは小学校の時に一番仲が良かった子だった。卒業アルバムを引っ張り出さなくてもわかる。絶対にあの子だと確信した。
1回も同じクラスになってないのに、なぜか仲良くなって、毎日一緒に下校して週に2回は遊んでた。中学に入っても3年間クラスは別々で、一緒に下校したり、遊んだこともあったと思うけど、違う高校に進学してからは全く連絡を取っていなかった。私は中学生の時にスマホを持っていたけど、あの子は持ってなかったから。学校で配られる連絡網は同じクラスの子の家電(いえでん)しか載ってなくて、だからもう連絡する方法すらなくなっていた。
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もし、フォローリクエストを送ったら承認してくれるのかな。
コメントを付けたら返信してくれるのかな。
リアクションをきっかけに、昔みたいに近所の公園で遊ぶことができるのかな。
ねえ、覚えてる?私たち、あの丘の上にある公園のブランコで靴飛ばしをして、木に引っかかって取れなくなって、裸足で家に帰って怒られたよ。ジャングルジムの一番高いところでDSマリオの対戦をして大喧嘩したよ。一緒に遊ぼうって言ったのに私の部屋にある漫画読み始めて、結局3時間無言で過ごしたんだよ。
もう忘れちゃったよね?そんな小さなエピソードなんか。あの頃はスマホがなかったからどこにも記録が残ってなくて、私とあなたの記憶から消えたらなかったことになっちゃうんだね。もしインスタがあったとしても、そんな些細なことはインスタに乗せたりなんかしなかったかな。
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この青いフォローボタンを押したら、私のこともあの日のことも思い出してくれる?あの時読んだ漫画のタイトルを思い出せる?学校帰りに体操着袋蹴っ飛ばしながら昨日見たドラマの話をしたことを覚えているか聞いてもいい?
「今日遊ぼうよー!公園行こ!」って2つ隣のクラスまで行ってわざわざ誘うことはできたのに、こんな小さな画面の中で「元気?久しぶり」って送ることができないんだ。私が覚えていることを、私と過ごした時間を、私という存在を、あなたが覚えてくれている自信がなくて、覚えていなかったときに傷付きたくなくて、それでもやっぱり昔みたいに友達でいたくて、いつまでたっても同じ画面を見続けている。
もしまた会えたらやっぱりあの公園に行こうか。私たちがひっかけた靴はもう無くなってるかな。奇跡的に残ってたりしないかな。もう履けないよね。私たちはもうこんなに大人になったんだから。お化粧しないと会えないよね。ジャングルジムの一番上を高いと思わなくなってるよね。でも多分、あの時好きだった漫画のことは今もきっと好きでいるよね。
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こんな小さな電子機器の中ですぐ簡単に繋がれるはずなのに、その一歩を踏み出すことができなくて、気付いたら外はもう明るくなっていた。
今日、街を歩いていたらたまたますれ違ったりできないかな。すれ違っても気付かないかな。もし気付いたらインスタじゃなくて、電話番号を教えてよ。