AM1:00。眠ろうとベッドに潜り、まぶたを閉じると、浮かんでくる記憶がある。
「本当に離婚するから」。母から連絡を受けたときのことだ。当時まだ学生に毛が生えた程度の思考力しか持ち合わせていなかった私は、思うところはあったものの、特に止めることもなく、その言葉を受け入れた。
そして私が23歳のとき、両親は離婚した。
それから5年。父と母は特別仲が悪いわけではないが、用がなければ連絡は取らない。そんな関係である。
◎ ◎
話は逸れるが、私はそこそこ幸せな幼少期を過ごした。
両親と弟がいて、愛犬がおり、綺麗な家、車があった。両親から、塾や進学先を金銭面で否定されることは無かったし、人並みに叱られながらも、満たされた日々だった。
しかし、私が大学を出て、社会人になるのとほぼ同時期に、両親は離婚した。
理由は書けば長いが、どちらかにものすごい非があるかと言うとそうではなく、娘の私からすれば「どっちもどっち。よくある価値観の違い」と言いたくなる内容である。
AM1:15。
……ああまずい。明日も仕事なのに。
家事はぎりぎりこなすが料理はさっぱりな父が、心配だ。今はのんびり楽しそうにしているが、無口で能天気な父が、いつか「あ、これ寂しいぞ」と感じてしまうのではないかと、気が気でない。野菜はきちんと食べているだろうか。階段で転んでいないだろうか。一人で倒れていないだろうか。
パワフルだが身体の弱いところのある母が、心配だ。基本的には元気いっぱいだが、貧血で倒れやすい。50歳を過ぎて離婚して、転職した母。家も引っ越した。つらい、しんどいと感じていないだろうか。お金は大丈夫だろうか。今は仮住まいに近い。この先の住居はどうなるのか。
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……いやまて。両親が寂しかろうが、辛かろうが、自分たちが離婚したからじゃないか。自業自得じゃないか。お互いがお互いを思いやれなかった結果がこれだよ。情けないよ。
将来私が結婚式を挙げる日が来たら、きっと両家は気まずい。もちろん私もめちゃくちゃ気まずい。親族控室って別にした方がいいよね。そうなるとお相手やその親族にも迷惑かかるよなあ。その前に、両家顔合わせも気まずくないか。もし私に子供が生まれても、その子はおじいちゃん・おばあちゃんに一緒には会えずに、別々に会うことになる。ふと自分の子供時代が頭をよぎる。祖父母と過ごした楽しい思い出。自分の子供にはもう、その思い出を与えてやることは出来ないのだ。
結婚も子供も予定はないのに、そんな心配ばかり浮かぶ。
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でも、今は3組に1組が離婚すると言われている時代だし、両親はそれぞれ、幸せそうに過ごしているのだ。みんなが今この瞬間幸せなら、それでいいんだよ。もう家族全員、大人なのだから。
AM1:45。
だめだ、眠れない。自分の気持ちが分からなくなる。私、両親のこと好きなの、嫌いなの。
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両親が大好きだ。私の絶対的味方でいてくれる。幸せを沢山くれる。
親が嫌いだ。何してくれてるんだ。子供が大人になってから離婚したところで、子供にかかる迷惑は莫大だ。老後の心配も2倍。どちらにも同じだけの愛情があるから、余計辛いよ。
結局私が、寂しいのだ。幸せだった幼少期の思い出を手繰って、あの頃に戻りたいとあがく、子供なのかもしれない。
涙が出る。頑張って止めようとしなければ、とめどなく。
ああ、今、何時だろう。私は今夜も眠れない。