ストレスが睡眠に出るタイプだ。小学生の頃、中途覚醒と呼ばれるらしい症状に悩まされた。22時頃眠りにつくのだが、大抵3時間おきに目が覚めてしまう。再度眠気がやってくるまでの1時間を、小学5年生の私は、1人寝返りを打つことで耐えていた。

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夜が来るのが怖かった。ベッドに横になるのも。カエルの声だけが鳴り響く住宅街で、新聞配達のバイクを待つ。気が触れてしまいそうだった。

幾度の夜を乗り越えて、眠れないことを嘆くのは辞めた。目が覚めてしまったのなら、諦めて本を読む。小さな明かりで『うちの3姉妹』を読み、何度も焦る心を落ち着かせてきた。

中学生になる頃に落ち着いた中途覚醒は、大学3年、就職活動を見据えた長期インターンで再発した。郊外にある学生寮から都心のオフィスに2時間かけて出社していたのだが、遠距離通勤と大学生活は相性が悪かった。

そもそも大学生の暮らしは、1限がある日とない日で起床時間が全く異なる。規則正しい生活なんてしていなかった上、学生寮の立地は悪く、通勤ラッシュに揉まれる必要があった。都心まで40分の距離、座りたければ1時間かかる各駅停車で揺られなくてはならない。

経済的な理由で寮を出る選択肢がなかった自分にとっては、やや堪える生活だった。

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週に2〜3日の出社と大学生活を続けて数ヶ月が経過した頃、眠れなくなった。明日も早起きしなきゃいけないと思うと、途端に脳が覚醒する。寝返りを打ち続けた夜を思い出す。あんな悪夢はもう見たくない。

もしかすると、メンタルの方が先に音を上げていたのかもしれない。なんとかオフィスの最寄り駅まで行けても、吐き気がしてトイレから出られないこともあった。

上司に連絡を入れる。直前でごめんなさい。今日は休みます。寝坊じゃないんです。6時には起きて、各駅停車に揺られてここまで来たんです。最寄りまでは来てるんです。でも限界で……。

伝えたいことは山ほどあるが、言い訳は無駄だ。汚い便座を前に心が折れ、インターンシップは半年で終了した。

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不安に駆られた。私は、普通に会社に行って、普通に働くことができないのかもしれない。仕事ができないとか、それ以前の問題だ。そこに行けない、いられない。当事者になれない。

そう思い詰めてしまうくらい、通勤や満員電車が「働くこと」のハードルを上げていた。業務の内容には関心があった。だからこそ、心はえぐられた。

いざ社会に出てからは、家賃が多少家計を圧迫してでも、通勤しやすい場所に住居を構えることで問題を解決した。現在ではコロナ禍で広まったリモートワークの波に乗り、通勤はせずに働けている。あれだけ苦痛だった満員電車から解放され、健康に働いている。

しかし、放っておくと悩みの種を見つけてしまう性分のようで、こんな生活をしていて大丈夫だろうか、なんて思ってしまう自分もいる。好きな街で、退勤ボタンを押した瞬間にベッドに寝っ転がれる。毎日4時間の自由時間とストレスフリーな生活と引き換えに、昇進や昇給から距離を置いているのだろうなと、心に隙間風が吹く瞬間もある。

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今の暮らしは、10年後の私にとってはこの上ない理想だと思う。子どもを育てながら正社員として仕事を続けられるだろうし、運がよければ時短勤務にする必要すらないかもしれない。

ただ、こう言い聞かせている時点で、合わない服を着ているような気分なのだろう。今の私にとっての理想と向き合い、一歩踏み出す時が来たのかもしれない。