先日、私は10年前の私自身の夢を叶えるために社会人枠公務員試験を受験した。
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これまでを振り返ると、私の子供時代は自分の小さな希望から大きな夢まで、叶ったことはほとんどなかった。
10年前の私は「衣・食・住」の全てにおいて人間らしい当たり前の生活は周囲に比べると出来ていなかった。そんな私には家庭の味なんてものは存在しなかったし、コンビニ弁当やスーパーの惣菜たちのおかげで大きくなった。
進路も就職先も、自分の意志を母親に伝えると金銭面など様々な理由をつけた上に彼女自身や家族の命を懸けて否定された。最終的に折れてしまった心の弱かった私は金銭面も迷惑をかけず、親の希望を最優先した狭い選択肢の中から進路や就職先を選択した。
ずっと志望していた進学先があったものの、当時の私は自分で学費を賄えるところを探し、進学した。
夢を貫き通せなかった自分に落胆し、「説得できたんじゃないか」という後悔の気持ちを抱えながらも大学生活を後悔したくなくて、単位は取れるだけ取得し、学費を賄うためのバイトも一生懸命励んだ。そのおかげで成績は学部内で1位だった。サークルを掛け持ちしたり、自治会活動にも精力的に励んだり、とにかく毎日を一生懸命に過ごした。
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そんな私は役所でのインターンに参加した。
学生時代からイベント補助やボランティアなどに参加しており、社会人になったら自分の街に寄り添えるような公務員になりたいと思っていた。申込者が多くいる中で選考に通り、インターン参加決定が分かった時はとても嬉しかった。
実際参加してみて、名前のないような業務があったり、個人情報等を取り扱うとても責任の重い業務を担当している職員がいたり、日々の業務内容の多さに驚いた。想像以上にとても緊迫感のある職場だった。毎日終了後は全身が脱力するくらい疲労感に襲われたけど、あっという間の数日間を終え、厳しい業務内容ではあるけど、人々の暮らしを多岐に渡って支えているとても素晴らしい職業だと再確認できた。
しかし、家の用事よりインターンを優先した私に当時の母が放った言葉は「そんなタダ働きして何になるの」だった。
公務員になるため、少しでも合格率を上げるため学校に行きたい。
だけど、自分の学費を賄うだけで精一杯だった私にとって、公務員学校への入学金はとても難しい金額だった。親にも反対された私は公務員の夢を諦め、民間企業に就職した。
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そこから約10年が経過した。
勤めた民間企業でも失敗や反省を繰り返しながら多くのことを学び、この企業だから社会やこの街に貢献できることもたくさんあることを知り、それなりに社会人としての日々を越えてきた。その日々に私は後悔していない。
自身の生活にも色々なことがあった。職場も数回変わり、住んだことのない街に住むことになった。そして、様々な事情で苗字が変わった。新しい家族、新しい苗字、新しい私。
そんな時に移り住んだこの街で公務員募集の記事を偶然教えてもらった。
筆記試験は約4か月後。
「勉強なんて久しぶりだし、もう4ヶ月しかない」
「無職で試験勉強をするより、早く民間企業に就職した方がいいんじゃないか」
「でもせっかく見つけたから、今度こそ公務員試験に挑戦してみたい」
色んなことを考え、たくさん悩んだけど受験することを決めた。
あの当時私の夢を否定した人はもういないし、今の家族はみんな全力で応援してくれている。
何より、あの時の私の夢を叶えるため「今度こそちゃんと、自分のために頑張ってみたい」と思った。
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一次試験の書類選考は通過することができ、先日二次試験の筆記試験があった。
試験当日を迎えるまで毎日試験勉強に励んだ。社会人になってから資格試験や業界の勉強はしてきたものの、試験勉強は学生ぶりで最初はすごくしんどかったが、苦手な数学の問題は何度も解き直し、練習問題も何回も繰り返し解いて試験に臨んだ。
試験当日は緊張のせいか指先が冷え、マークシート記入に手こずったし、時間が足りず、全ては埋められなかった。だけど、終わった後は充足感でいっぱいだった。
「今、叶えたかった夢に挑戦している自分がいる」
二次試験の結果はあと一週間で分かる。
合格していたら最終試験の面接が待っているが、不合格でもまた挑戦できたらな、と思う。
結果は分からないけど、自分の夢を何歳になっても諦めずに叶えようと挑戦が出来る今が私はとても幸せだ。
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これを読んでくださっているあなたに叶えたい希望や夢はあるだろうか。
女性だから、○歳だから、結婚したから、子供がいるから、時間がないから、反対されているから、自信がないから、お金がないから、世間の目があるから。
私たちの周りには足枷になっている言葉たちがはびこっている。
だけど夢や希望を叶えられるかは別として、挑戦することなら何歳だってできる。遅すぎることなんて決してない。
約10年前の私もお金がなく、自分の気持ちを貫き通す自信もなく、命懸けで反対され、家族に嫌われることを恐れて「いい子」でいることに何年も執着し続けた。そして、親の言いなりになり、自分の夢を何度も諦めてきた。
だけど、味わってみたかった家庭の味・行きたかった大学・就きたかった仕事。少し前まで、かつての私が叶えることを諦め続けた夢は大人になった私の心の奥深くにこびりついていた。
そのこびりついた後悔や悲しい思い出は完全には無くならないが、大人になった私がかつての子供だった私の夢を叶えたり、叶えようと挑戦をしたりすることでそれらは少しずつではあるけど小さくなっている気がする。
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今の私が家庭の味を食べることができること、それを母から教わっていること、一人暮らしの自分の住処があること、日々穏やかな気持ちで過ごすことが出来ていること、なりたかった夢や希望を叶えようと今でも挑戦できること、挑戦する私を応援してくれる味方がいること。
これらたくさんのささやかだけど大きな幸せに感謝し、嬉しさを噛みしめながら、これからも日々を生きていきたい。
かつての私の屍を越えて、そんな足枷を断ち切れる女性たちが少しでも増える世の中になるといいなと心から願う。