2020年春、それまで休日に予定を入れないことなどほとんど無いほど「歩みを止める」とは無縁の生活を過ごしてきた私のスケジュール帳が、急に全て白紙になった。
きっとこのエッセイを読んでくださる方もピンとくるだろう。ウイルスの感染拡大という未曽有の事態に、世の中が振り回されていた。

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中学・高校時代の青春を、学内で一番活動が忙しいと言われていた吹奏楽部の活動に捧げ、そのまま大学時代もアルバイトに旅行に(時々、学業に…)と、常に予定を一杯に詰め込む生活を送ってきた。

ウイルスの感染が拡大した当時、私は地元を離れ大阪で一人暮らしをしていた。家族や友人と離れて暮らす寂しさを紛らわす意味合いもあってか、毎日のように会社の先輩や同期と飲みに出かけたり、仕事の休みがあれば国内海外問わず旅行に出かけたりと、相変わらず常に休みなく動き回るスタイルを続けていた。

最初のうちは、休日に家から出ることも出来ず、一日中家に引きこもって一言も言葉を発することもなく終わってしまうような日もあった。自由な時間が増えた一方、何をすれば良いのか分からず、時間を持て余し一日が途方もなく長く感じられた。
そんな話を、会社で仲良くしていた2つ上の先輩にしてみた。すると、「今度の休み、一緒にうちの近くの河原でピクニックしようよ!」と誘ってくれたのだ。

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ピクニック当日、私は前から行ってみたかった自宅から少し離れたパン屋へ行き、目に留まったパンを4つ買った。そして、少し前に友人からもらったちょっと高級な紅茶のティーバッグと、保温が出来る水筒に入れた熱々のお湯を持ち、約束していた河原へ向かった。先輩も美味しそうなカステラと、最近のイチオシだというカフェでアイスコーヒーをテイクアウトして持ってきてくれていた。

そのままほぼ一日中、河原に敷いたレジャーシートの上で、パンと、紅茶と、コーヒーと、それからカステラをゆっくりと食べながら過ごした。
時折、川の流れを見に行ったり、レジャーシートに寝転がってひたすら空を眺めたりもした。
そんな河原の景色に、子供の頃自転車の練習をしに行った実家の近くの河原の景色の記憶が重なり、なんだか懐かしいような気がした。
今までのように、目的地や時間の計画をしっかり立てて動く休日ではなく、目的も過ごし方も特に決めずに過ごす休日も悪くないかもしれない。初めてそう思った瞬間だった。

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翌週、緊急事態宣言が明けて久しぶりに営業を再開したばかりのターミナル駅の駅ビルに行き、店員さんおすすめのアウトドアチェアと保冷にも保温にも対応した容量の大きいタンブラーを購入。
早速、私はお昼ご飯のサンドイッチと家で入れたコーヒー、そして買ったばかりのチェアを背負ってこの間の河原へ向かう。一人で自然を見ながらぼーっとしつつ、時々本を読んだり、考え事をしたり、コーヒーを飲んだり。そんな休日の過ごし方がすっかり気に入った。

あれから4年半、コロナ禍が明けた今でも私はたまに一人で河原でピクニックをしている。
常にスケジュールを詰め込んでせわしなく動き回るだけでなく、一旦歩みを止めて時間を過ごしてみたからこそ見つけられた、新しい趣味。
きっとこれからも私はこの河原ピクニックのルーティンを続けるだろう。