自分をロボットのようだと思っていた私が接客業の魅力に気づいた理由

私は大学2年生の夏、アウトドア用品店でアルバイトを初めた。アウトドア用品店を選んだのは、高校の登山部で山に登っていたのと、アルバイトをするなら自分の好きなことでお金を稼ぎたいと思ったからだ。
業務内容は、接客や在庫管理など、店舗に関わる全体的なものだ。その中でも特に任されていたのは接客で、ほとんどの時間店頭に立って過ごしていた。いわゆるショップ店員なので、お客さんに商品の説明や提案をしなければいけない。これが初めてのアルバイトだった私は必死で、商品の特徴をひたすら覚えて、マニュアルや商品カタログを読み込み、お客さんにはそのままの言葉で接客をしていた(慣れてくるとそれっぽく感情を込めてみたりして笑)。
その中で、わからないことがでてきた時には、すぐに先輩に変わってもらったり、マニュアルを見返してそれをそのまま伝えたりしていたため、接客に関して特に「楽しい」と思ったことはなかった。同じ時期に入ったバイト仲間とは、「私たちロボットだね」「AIにとって代わられるね」などと言いながら業務に当たっていた。
しかしそうは思っていても、1番大事なのは間違った案内をしないことだ。特に登山靴や雪山に行く人向けの装備などは、間違った案内をすればお客さんに怪我をさせることになる、と教えられたりして、絶対に適当なことや間違ったことは言えない、というプレッシャーを感じていた。
そんな中、アルバイトを初めて3か月ほど経った頃、年の近い社員さんと同じ大学生アルバイトの先輩に、一緒に山に行こうと誘ってもらった。新しく出会った先輩と一緒に山に行けることがとても嬉しく、ウキウキで向かい、山の中ではたくさんお互いの話をして楽しんだ。
下山後、キャンプサイトでみんなでご飯を食べていると、先輩から突然「今度出る新しいキャンプチェア買ったんだよね、次はあれを実際山で使う会しない?」と言われた。私はその言葉がすごく衝撃的で、「商品を実際に山で使ったりするんですか?!」と聞き返すと、「え、そうだよ!そうした方がお客さんに話す時に使えるし、せっかく山好きでこの仕事をしてるから、メリット味わいつくさないと笑」という答えが返ってきた。その考えが全くなかった私は、驚きと先輩へのリスペクトを感じると同時に、自分の「好き」と言っていたものが浅く思えて少し恥ずかしさを感じたりもした。
さらに、バイト先ではあまり自分の素を出すことができずにいた私だったが、山の中にいる、という非日常のパワーも借りて、正直にアルバイトを楽しいとは思っていない自分の心境を吐露すると、「もっと自由にやっていいんだよ、じゃないとつまんないでしょ!」という言葉が返ってきた。
そこから、少しずつ自分の経験や感想を接客の中に取り込むことを意識し、例えば今から登山を始めたい、という人には、山に持っていくのにおすすめのお菓子(ちなみにセブンイレブンの黒糖わらびです)を話したり、雪山を始めたいという人には、雪山は水分が大敵で、私は持って行ったコンタクトの洗浄液が凍りました…というエピソードを話したりなど、自分の言葉で接客ができるようになっていった。
最初は、この業種についてアルバイトだし、無理してそこまで頑張って続けることにこだわらなくてもいいや、と思っていたりもした私だったが、この出来事をきっかけに接客業に魅力を感じ始めた私は、就活でこの業界を志望している。
また、正直この出来事が起こるまで私は、実店舗での小売業の仕事は、これからの技術の進歩によってどんどん廃れていくものだと信じて疑っていなかった。もちろんその傾向があることは確かだけど、こうした人の経験から生み出されるモノとの出会いは、実店舗ならではの魅力の1つだと思う。
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