初めて食べたのはいつだったか、もう思い出せない。 物心ついた時には、おばあちゃんのフレンチトーストがいつもそこにあった。 

おばあちゃんがエプロン姿でキッチンに立つ。 甘く香ばしい匂いが鼻をくすぐり、黄色く輝くパンが食卓に並ぶ。私にとって、おばあちゃんのフレンチトーストとの出会いは、日常に溶け込むほど自然なものだった。

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おばあちゃんのフレンチトーストは、まるで雲のようにふわふわで、口の中でとろけるように柔らかい。 やさしい甘さがじんわりと広がり、心が安らぐような温かい味がする。 仕上げにかけられた白糖は、キラキラと輝く雪のよう。 甘いたまごの香りが食欲をそそり、黄色く輝くパンはまるで宝石のようだ。

おばあちゃんの家に泊まると、フレンチトーストがよく朝食に出てきた。 「今日はわたしが砂糖かけたい!」 そう言って、おばあちゃんから砂糖を受け取り、好きなだけかけるのが至福の時だった。

ジャムサンドもシュガートーストも。 私が今でも好きな甘いものは、おばあちゃんが食べさせてくれたものが多い。

おばあちゃんは、さっぱりした性格の人だったけれど、怒られた記憶はほとんどない。 いつも「あら、まあ」って笑っていた。 やさしくて穏やかなおばあちゃん。
そんなおばあちゃんとの思い出の中で、フレンチトーストは特別な存在だった。

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おばあちゃんが病気を患い、入退院を繰り返していた頃。 「みんなで集まろう!」と父が企画し、おばあちゃんの子2人と孫5人、そしてひ孫3人が集まった。久しぶりに顔を合わせる親戚たち。子供たちは好き好き遊びまわり、大人たちは近況を報告しあう。
そんな賑やかな集まりの中で、妹のリクエストでフレンチトーストが作られることになった。 一番下の弟はまだ小学生で、卵アレルギー持ち。 「かなちゃんたちの時は卵入れてたんだけどね、卵入れないで作るんだよ」 そう微笑んで教えてくれたおばあちゃん。卵なしでもおいしいフレンチトーストを作ってくれるなんてさすがおばあちゃんだ。

たっぷりの牛乳と砂糖に食パンを浸し、バターを引いたフライパンでじっくり焼く。 甘いいい香りがしてきて、完成したフレンチトーストは、私が知っているものとは少し違っていた。でも、食べてみるとおばあちゃんのやさしい味は変わらない。
口に入れてみると、ふわふわの食感とともに、やさしい甘さが広がる。仕上げの白糖もかけて、さらにふわっふわになったフレンチトーストに感動した。
「おいしいね~!」 みんなが笑顔だった。おばあちゃんも「あらそう?」と、嬉しそうに微笑んでいた。

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おばあちゃんはその数日後、再び入院し、そのまま帰らぬ人となってしまった。
おばあちゃんのフレンチトーストは、私にとって単なる食べ物ではなく、家族の温かい思い出や、おばあちゃんの愛情が詰まった宝物のような存在。
あの日、3歳と1歳だった娘たちは、初めておばあちゃんのフレンチトーストを口にした。目をキラキラさせながら、大きな口を開けて頬張る姿は今でも覚えている。「おいしいね!」そんな言葉もたどたどしかった娘たちにとって、おばあちゃんのフレンチトーストはどんな味だったのだろうか。

大きくなった彼女たちに、「おばあちゃんのフレンチトースト、覚えてる?」と聞いてみたい。
そして、私自身が娘たちと一緒にフレンチトーストを作り、おばあちゃんの味を伝えていきたい。 それが、私にとって大切な思い出であり、未来への希望だから。