私の母も強さをちゃんと持っている人なんだとアラサーでようやく実感することができた。

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「母になると強くなる」「母は強い」などと言う言葉をテレビなどでよく聞いていたが、正直私はピンときていなかった。

なぜかというと私自身、母になった経験がないから。もちろん理屈では理解している。自分よりも大切で、すぐに壊れてしまいそうな命を守らなければいけないから母は強くなるんだということを。しかし本当の「強さ」の意味は理解していなかった。

それに私が思う、母のイメージは「母=強い」よりも「母=大変」のほうが強かった。
なぜなら自分の母が大変そうに日々を過ごしていたから。

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私の母は関西人だが、しゃべるタイプではなく、おしゃべりな父の話をひたすら聞いているタイプ。そして自分のことを後回しにしてまで、家族のこと、子供のことを第一に考える人である。

私が幼いころ、仕事が忙しい父はあまり家にいることがなく、私と姉をほぼワンオペで育児をしてくれた。父に頼ることも自分の親に頼ることもなかった。
そして私が小学校高学年になると母も働くようになり、私は鍵っ子となった。

母は仕事が終わり帰宅すると、当たり前のように家事をしてくれて、ひと段落するとうたた寝をして1日を終える毎日だった。疲れている母に話かけることはできず、学生時代は母と話すことはほとんどなかった。
そういう母を見て、お母さんになると大変なんだという価値観を持つようになった。

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友達とどこに行くか何をするかはもちろん、進路相談もほとんどしたことがなく、全て事後報告だった。

友達はお母さんと一緒に買い物に行ったり、色んな話をしていて、友達みたいな関係に憧れを持っていたが、それが実現することはなかった。母も私に、今日学校で何があったかなど何も聞いてくることはなかったので、私に興味がないんだと思いこみ、家は私にとってご飯を食べて寝るだけの場所になった。

私の中で諦めの心が芽生えた。自分のことを話すのはやめよう、相談するのもやめようと決意したのだ。
それからどの高校に行くか、どの大学に行くか相談することなく、自分で決めて事後報告。もちろん私の意見に反対することはなく、揉めることもなく、受け入れてくれた。
大学生になって留学に行くときも事後報告。就活のときもどの会社を受けるか相談することはなかった。

社会人になったら絶対に実家を出て一人暮らしすると決めていた。
今思うと自己中で、わがままで、甘えすぎな娘だったと思う。

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そんな学生時代を過ごし、私がなぜ母は強いと感じるようになったか決定的な出来事はない。けれど大人の年齢になり、周りが母になっていったり、街で親子を見たり、友達の結婚式でお母さんへのメッセージを読んでるのを聞いて自分の親子関係を思い返したのだ。

私の母は私に興味がないから何も言ってこなかったわけではなく、私を1人の人間として尊重してくれていたんだと気づいた。
学生のころなんて、自分の子供が危ない方向に行くかもしれないし、子供の意見に口出ししたくなることもたくさんあるはずなのに、私の意見を否定することはなかった。いつでも子供の意見を尊重し、応援してくれていた。
見守るということがどれほど大変で、辛いことかを知ったとき、母は静かに私のことを見守って、信じ続けてくれたことに気づいた。
私の母は内に秘める強さを持っている女性だと心の底から思った。

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学生の頃はほとんど話していなかったけど、子育ても終わった今、母と過ごす時間を持ちたいと思うようになった。
今まで知らなかった母の価値観や性格、好みを今少しずつ知っていくことが嬉しいひとときだ。

もし私が母になる日が来ても自分の母のように強くはなれないだろうけど、母の強さを心から尊敬している。