終わらないでモラトリアム。あの素晴らしく怠惰で無意味な夜たちを

朝が来ないで欲しいと願った。ずっと大学生のままでいたい、このまま変わりたくないと強く願った。
私は大学時代、英語の部活に入っていた。私は部長ではないが、部活の中で人に教える役職についていて、大会に出たりと結構部活を頑張っていた。部活動は楽しくもあったが辛くもあった。
大会で良い成績を収めるために泣きながらスピーチを書いたり、合宿を運営したり、後輩にスピーチを教えたり、後輩にインスタのストーリーで悪口を書かれたり、人見知りなのに部活を盛り立てるために貼り付けた笑顔で他校の人と交流したり、色々と頑張った。
そんな結構部活を頑張っていた私が部活で想い出に残っていることは何か。そう、生ぬるい飲み会である。
大抵大学の近くに住んでる奴の家に溜まっていた。毎回ドンキで大量に酒と食べ物を買い込むのに結局食べきれなくて、宅飲みの家主に押し付けていた。宅飲みの買い出ししてる時ってなんであんなになんでも食べられるような気がするんだろう。
絶対そんなわけないのに酒が強い奴が正義みたいな風潮。部活のことで熱くなって泣く奴。終電後の喋ることがなくなってだれた空気。こんなに喋ることないんだったら帰って寝れば良かった〜と毎回思った二十五時。飲み会後にカラオケに行って結局歌わないで寝てた日。宅飲みで雑魚寝して身体がバッキバキになったこと。
思い出というにはぬるすぎる。正直何を話したのか、どんなことをしたのかを正確に覚えているわけではない。何がそんなに楽しかったわけでもない。ただ、四年間一緒にいた友達と酒を飲みながら怠惰に過ごすことが最高に心地良かった。
大学生の頃は、時間が永遠にあると思っていた。でも「大学生」でいられる時間は四年しかないもので、私たちも卒業の時期を迎えた。
上着を着なくても外に出られるくらい暖かい時期だった。桜がちょうど満開だった。あと数週間で社会人になる最後の春休みに、私たちは卒業旅行で福岡に行った。豚骨ラーメンを食べたり、福岡タワーに登ったりした。観光も楽しかったが、結局私たちは飲み会を一番楽しみにしていた。
夜には近所のスーパーで酒をしこたま買い込んで、 Airbnbで借りた十一人も泊まれるマンションの一室で、酒を飲みながら笑った。カードゲームをやって笑って、死ぬまで酒を飲んで、その話もう五回は聞いたよ?って話に相槌を打って笑っていた。
別に福岡じゃなくてもできるいつもと同じような飲み会。でもいつもと違うのはこれが皆で過ごす最後の夜ということだ。この夜が明けたら私たちは社会に出て、働く。大学の近くから職場の近くに引越し、簡単には会えなくなる。それは当然のこと。頭ではわかっている。でも、変わりたくないんだ。
朝が来ないで欲しいと願った。ずっと学生でいたい。社会人になんてなりたくない。今の時間を、ここにいる友人たちを愛している。社会人になんてなりたくない。
この生ぬるい時をずっと共有していたい。酒を流し込みつつ心の中では「朝なんて来るな」と切に願っていた。みんな口には出さなかったけど、そう思っていたと思う。
結局、時が止まるわけもなく。寝るのが惜しくダラダラしてたらテレビから朝のニュースが流れてきて、朝日は昇り、そのまま寝ずに吐きそうになりながら飛行機に乗って帰った。そして四月、髪を黒く染めスーツを着て、普通に社会人になった。
あの夜が終わり、朝が来て、私たちは大人になった。変わりたくないと心から願っていたのに、新しい環境に流されて自然と私たちは変わってしまった。何人か連絡が取れなくなったり、人間関係がこじれたり、生きる場所が変わったことにより性格や価値観が変わった。
大学生活は過去のことになった。それを成長と言うのだろう。あの夜に想いを馳せると、もう絶対に戻れない過去に寂しさや切なさを感じると共に、キラキラとした輝きを感じて胸がじんわりと温)くなる。
もうあの頃には戻れないし、変わってしまった私は「戻りたい」と切望することすらなくなった。社会人になって学生時代が嘘のように全く酒を飲まなくなった。それでも、スーパーの酒コーナーを通り過ぎるとふと思い出す。あの夜を。あの素晴らしく怠惰で無意味な夜たちを。
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