強さってなんだろう?
きっと、その意味は彼女が知ってるはず。

◎          ◎

彼女と出会ったのは、大学の入学式。
学籍番号が隣同士で、私から話しかけたことがきっかけだった。
お互い地方から上京したばかりで、東京への期待と不安を同じくらい抱えていた。
だから、仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。

私たちは、いつの間にか毎月1回、大学が終わったらご飯を食べに行くようになった。
最近出会った人のこと、恋愛の価値観、将来こうなりたいなど、とにかく色んなことを話していた。
未来はなんだって選べるんだと、あの頃の私たちは希望で満ち溢れていた気がする。

そんな私たちが大学4年になるとき、彼女は就活をしないと言った。
まぁ、そうなるだろうなぁと思った。

彼女は自ら立ち上げたコミュニティを運営していて、そこに注力したいという。
世の中の流れとしても注目されていたので、彼女が就活しないということも納得だった。
きっと、彼女らしくコミュニティを拡大していくのだろうなと思っていた。

◎          ◎

2022年、秋。
その日は彼女の誕生日を祝うため、ちょっとお高めの店に来ていた。
日本酒に合うご飯を楽しんでいると、彼女が「最近、夜眠れないんだよね〜」と言う。
どうやら、寝てもすぐに目が覚めてしまうらしい。
いつも通りの笑顔で話していたが、なんだか彼女は色んなことに対して焦っている様子だった。
フリーランスとして自由に働ける分、コミュニティの運営に注力しすぎていたのだと思う。

何となく、嫌な予感がしていた。
どこかで見たことのある知識を頭でぐるぐる思い出しながら、「今大丈夫だとしても、ちゃんと病院行ったほうがいいよ」「寝れないのは、あまり良くないと思うよ」と伝えた気がする。
彼女は「大丈夫だよ」と笑っていた。

◎          ◎

それからも変わらず毎月会っていたが、2024年1月、「鬱になった」と連絡があった。
「薬を飲んでいる間はお酒も飲めないから、元気になったら飲みに行こうね」
私たちの近況報告会は、しばらくお休みとなった。

でも、何となく話をしないのが寂しくて、私は月に1回食べ物のギフトを送った。
すぐに食べられるスープや、少しだけ甘いものがあれば何かの助けになるだろうと。

2回送って、結局彼女からのお返しがあって、少し申し訳ない気持ちになった。
私にできることがなくて、もどかしかっただけだなと今振り返って思う。

◎          ◎

春らしくなった4月下旬、彼女と久々に会うことになった。
お酒を飲みながら話していたら、彼女の目からは涙が溢れていた。
あの時、私は何を伝えていたかな?
彼女自身が悪いわけではないと言っていた気がする。
何も、誰も、悪くないからこそ難しいのが鬱なのだと思った。

その後、彼女は貯金をはたいてヨーロッパ旅行をしたり、ジムに通って筋トレしたり、少しずつ心と身体を充実させていた。

2025年、彼女は正社員として働き出した。
そして、新たなパートナーと出会い、彼女はとても柔らかい表情をしている。
きっと新しいパートナーと相性が良いのだろう。
少しずつ、彼女は鬱と寄り添っているように感じる。

◎          ◎

そんな私は、4月からフリーランスとして生きようとしている。

何だか、私たちはいつも逆の道を選んでいるね。
でも、いつだってお互いの挑戦や苦しみを共有してきたからこそ、私たち一緒に乗り越えてきたと思っているよ。

彼女との近況報告会は、今年で10年目になる。
来年の春には出会って丸10年だ。

「もうそんなに経ったの?」と次会ったときは笑い合おう。

きっとこれからも、私たちらしく人生進められるよ。
それが私たちの「強いとこ」だから。