将来の夢は何ですか?
ーーークッキー屋さん!

そう答えていた私はもうここにはいない。

歳を重ねるにつれて見えてくる、夢だけじゃ生きていけない現実。
働いていても、上司からは「現状と目標の差分を埋めるために何をしなければならないのか」と問われ、25歳を超えたら「結婚は?」と聞かれ、結婚したらしたで「子どもは早い方がいい」と言われ、考えるだけでも何なら生きるだけでカロリー消費が計り知れない。
考えれば考えるほど、ぼんやりとした自分がどうしようもないちっぽけな人間に思える。
夢ってなんだっけ。幸せに生きたいだけじゃダメなんだっけ。

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私は、自分が夢を持てなくなったきっかけを明確に覚えている。
小学生の頃、世界で活躍するパティシエの方のドキュメンタリー番組がテレビ放送されていたのを見た時、【上には上がいる、1番にはなれない】そう強く思った。
パティシエになりたかった当時の私は、テレビに映る世界に憧れることより現実を見ることを選んだ。

私の人生は本当に【運がいい】と自分でも思うくらい順調でしかなかった。
小中は地元の公立学校に通い、学区が良いと言われる地域で自然に囲まれながら伸び伸びと過ごした。人と違うことをするのが好きで、学級委員長も生徒会長にも、部活のキャプテンにもなった。

高校は自転車で20分、自身の学力で行けるちょうどいい県立高校の特進クラスに進んだ。
普通に勉強していれば、どのテストでも30位には入れるくらいの学力。私の学力が高かったのではない、〈この学校では〉まだ頭がいい方なだけ。
特に英語が得意で、全体の内点も良かったこともあり、3年生の10月にはずっと行きたかった外国語系の大学への進学が学校推薦で決まった。

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大学では大好きな英語を大好きな友人と学び、ニュージーランドに留学にも行った。就活も3年生の2月から始めて、たった2ヶ月後の4年生の4月には第1希望の大手通信会社に内定が決まった。誰もが知ってる企業に内定が決まり、誰からもすごいと言ってもらえた。

ここまで進学にも就職にも自分の中で苦労したことがなかった。本当になかった。
他人からしたら大変そうに見えることでも、自分にとってそこまで苦になるものはなかった。
だからこそ、就活の時の「学生時代に大変だったこと、苦労したことはありますか?」この質問の回答には本当に頭を悩ませた。

ただ私が苦労しなかったのは、無意識のうちに【苦労をしなくてもいい】道を自分で選んできたからなのかもしれない。
そう、私はきっと現実世界をチラ見したあの日から、【苦労しても1番にはなれない】と子どもながらに悟って、苦労しない道を無意識に選択し、1番を目指すことをやめた。

キラキラ光るあの人の人生も、きっと苦労してやっと掴んだ幸せ。そんな【大変だった】過程はInstagramやTikTokの投稿だけじゃ知ることはできない。
だからこそ、あの時のドキュメンタリーという現実を追ったリアルに、自分に自信がなかった私は打ちのめされたんだろうな。

若者のテレビ離れが進んでいると言われ、小学生の憧れの職業ランキングにYouTuberがランクインする時代に、ドキュメンタリーを見る機会はどんどん減っている。
自ら知りたい情報を選択し、ネット広告すらも私の興味のあるものばかりを教えてくれる。
今の時代に生まれたら、好きを伸ばせたのかな。夢を見続けられたのかな。

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これまで戦略勝ちだった私の人生。
戦略を無意識に立てていた私は、気づけば夢を見られなくなった。
夢を追うことの大変さを追う前から無意識に避け、飛び込まないことで自分を守ってきた。
もうすぐ私は、現実すら見ることができなくなるのかな。

ただ、明日も笑っていたい。今の幸せが続いてほしい。
有名になれなくても、世界を変えられなくてもいいのかな。

27歳の私の夢は【ただ幸せになりたい】