「画家になれるわけないじゃない」そうして私は夢を語れなくなった

あなたの夢は何ですか?
この質問、人生で一番最初に聞かれたのは、幼稚園の頃だった。
夢を紙に書いて、教室に掲示するというものだ。
そのとき書いたのは、「お花屋さん」
当時親友だった子がそう書いていたから、真似した。
次に聞かれたのは、小学校6年生の時。
私が通っていた小学校では、卒業式で、卒業証書授与の際、名前が呼ばれたら「はい!」と返事をするだけでなく、その後に将来の夢を語らなければならなかった。
親、兄弟、在校生、先生……たくさんの人がいるなかで語らないとならないから、卒業式前になると、当然に皆んな真剣に何を言うか考え出す。
ピアノを習っているからピアニストになりたい!お父さんと同じ車の仕事がしたい!警察官になりたい!など。
明確になりたいものが決まっている子を見て、焦った。何か見つけなきゃ!
そこで私が絞り出したのは、画家だった。
絵を描くことが好きだったので、将来の夢は、画家になった。
さっそく親戚の集まりで、将来の夢は画家だと伝えた。大人たちは喜んでくれたが、中学生になっていた親戚のお姉さんは違った。
「なれるわけないじゃない。画家で食べていける人なんて、ほとんどいないのよ」
ショックだった。
夢を探せという周囲の圧があって、せっかく見つけたのに、何でそんな意地悪なこと言われなきゃいけないの...。
「画家では食べていけない」その言葉は、脳裏にこべりつき、なんとなく本当なんだろうということに気づき始めた。
結局、卒業式には、夢が見つかってない人の常套文句「勉強をがんばりたいです」になった。
それから、夢を語るのが怖くなった。否定されたらどうしよう。
言われるがままに、良い大学、良い会社に入ることが夢になった。周りや世間から評価されるだろう、ということを夢ということにしたのだ。
そんな他人軸を順調に歩み、社会人1年目になったとき、1番の味方だった祖父が亡くなった。私の中で何かが崩れた。深い深い穴の中に落ちていく感覚だった。
何もかもがどうでもよくなり、何のために生きているのか分からなくなった。会社も辞めた。何もしていない間、ゆっくり自分自身と向き合い、気づいた。
これまでいかに周りからの承認欲求だけで生きてきたのか。否定されることに恐れていたのか。「褒められたいから頑張る」に依存してきたのか。
自分は何がしたいのか、どう生きたいのか、どんな人と一緒にいたいのか。そのことに気づいてから、もがき始めた。
善意なフリをして、悪意ある言葉を投げてくる人間とは縁を切った。何か行動していないと、もう立ち上がれなくなるほど、深い穴にどんどん落ちていく感じがして、必死だった。
もがいていると、だんだん分かってきた。 たくさん失敗したり、泣いたりしたけど、着実に穴から脱出することができてきた。
そして今では、自分に合った仕事を見つけることができ、趣味もほどほどに楽しめている。
必死にもがいたことで、確固たる基盤を築くことができた。
「あなたの夢は何ですか?」
この問いに答えるために、焦る必要はない。
自分が安心したいがために相手に答えを出させることを急かしたり、夢を強要したりしてはいけない。
過去の自分に、こう伝えたい。人間は弱い生き物だから、その人を取り巻く状況や環境、心身の状態によって、悪意のある言葉を投げかけてしまうこともある。
それは、どれだけ長年知り合っていて、信頼関係のある人間であっても、あなたも、わたしも。だから、そんなときは距離をおいて、自分自身と向き合って。
少しでも興味があることを全力でやってみたらいい。結果が出ても出なくても、あなたの糧になって、それが別の道で活きてくるから。
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