10年。
出会ってから10年。
最初は学校の先輩だったけど、すぐに友達に変わった。
文化祭に向けて毎年一緒に装飾を作った。真剣に会議をして、理不尽な先生に立ち向かって、悔しい思いも、跳び跳ねるほどの楽しさも、全部一緒に過ごした。お互いアイデアマンで、面白いことをポンポン思い付いちゃって、皆にうまく伝わらなくてもお互いにだけは伝わっているあの感覚は今でも宝物。似てるんだなぁって思った唯一のひと。
友達だけど、兄弟のような、家族のような。きっと5年先か、10年先か、いつかふわっと付き合って、ふわっと結婚するかもなぁなんて、一緒に暮らしている家を想像しても、違和感がない人だった。
男が嫌い。でも彼には居心地の良さがあった
私は昔は女子とより男子とよく話す方だったけど、今はもう男が嫌いになっていた。正確には男の、無責任な、衝動的な、自己中心的な、身勝手な、性欲が怖かった。
19歳のとき、家のすぐそばで襲われた。知らないおじさんに好き勝手やられて放り出された。私は何か悪かっただろうか、まだ夕方6時だったし、スカートは短くなかった。悔しい気持ちは行き場を失って、飲み込んで、それから男が嫌いになった。誰であれ警戒するようになった。男友達の顔の近さに気付かぬふりして耐えるようになった。帰り道、30秒に1回は後ろを振り返るようになった。
彼とは付き合いが長いからか、二人きりでも警戒することはなかった。そもそも男として見てなかったから、そんなことをわざわざ気にしていなかった。そこに居心地の良さがあった。
「ホテル、行きませんか」断るセリフが出てこなかった
秋、銀座の展示会を見て、新宿で夜ご飯を食べて。22時近くになって、帰るにはちょっと早いような、まぁ帰ってもいいか、うーん、もうちょいフラフラするか、って駅の周りをぐるぐる散歩して、いい加減どっかカフェでも入ろうよって私がイラつきはじめたとき、
「もう少し、二人でいませんか。ホテル、行きませんか。」と言った。
未だにこの質問に対する正しい答えがわからない。いや、ほんとはなんとなくわかってる。けど言えなかった。
断るセリフが出てこなかった。付き合うならいいのかもしれない、でも付き合ってとか言われてない、今、付き合うの?って聞いて、うんって返されても今からホテル行くんだからそんな言葉は信用できない、終わったあとに言われる方がまだ信用できる。一瞬でそんなことを考えて、結局ぬるっと受け入れるしかできなかった。核心を聞くこともできなかった。
その夜私は私の初めてを全部彼にあげた。彼ならいいと前から思っていた気がした。フリーズする私に、彼はゆっくり丁寧に優しくしてくれた。
彼は真面目で不器用で、遊んだりできない人。好きな人には、好きです付き合ってくださいって言える人。人を傷つけたりしない人。
10年の付き合いなんだから、そんなことわかってる。順番が逆になることもあるだろう、そりゃ大人ですから、そういうことも。あるんだよ、きっと。
そう言い聞かせて、今は忙しいという彼からの連絡を待って、5ヶ月が経った。
いくらあなたでも、いや、あなただから、許せない
「ちゃんと付き合いたいと思ってる。将来のことも考えてる。」
そう言われて、そう言われたかったはずなのに、その言葉をずっと待っていたはずなのに、全然嬉しくなかった。
もう遅かった。
ごめん。私はあなたともう友達ではいられない。付き合う事もできない。いくらあなたでも、いや、あなただから、許せない。1番されたくないことだったかもしれない。もうあなたは男にしか見えない。
大人の間違いひとつも、順序さえも、許せないような小さい女で、まだまだガキで悪かったね。
あなたの嫌いなところ100個くらいあるけど、私はちゃんと、あなたを好きだったよ。
どうか、お元気で。