数年前、4年半付き合った彼氏と別れた。
原因は、たぶんはっきりしたものではなく、“将来性”や“慣れ”みたいなものが、ふくれて雲のようになったからだ。

関係の雲行きが怪しくなっていたことはもちろん認識していた。
長く付き合っていたためか、一緒にいられることのありがたさや、純粋に「好き」という感情がよくわからなくなっていたのだ。
このままなんとなくで付き合い続けていくか、じきに別れの時がくるか……。
正直なところ、どちらになっても運命に身を任せればいいと思っていた。

別れ話にしっかり向き合えず、逃げ出したくて強制的に話を終わらせた

その日は、いつものように駅の改札で待ち合わせていた。
「今日は、どこか行きたいところある?」と聞くと、彼は、そわそわした様子で「ゆっくり話せるところに行きたいな」と言った。
私は、そこで彼が別れ話をしにきたことに気づいた。
日差しの強い真夏日だったので、急いで駅前のカフェテリアに入った。

それぞれにアイスコーヒーがサーブされると、彼は静かに息を吸い、涙声になりながら、「今後のことをどうしようかなと思って……」と絞り出した。
冷めつつある関係に比較的冷静なつもりでいたが、目の前の涙に一瞬でもらい泣きした。
私は、「そうだよね……(別れて)いいんじゃないかな」と一言返すので精一杯だった。
他席のお客さんの目を気にしながらも、2人とも涙は止まらなかった。

今思えば4年半もの間、付き合っているのが当たり前の日々を送ってきたのだから当然だ。
私は、どうしたらよいかがわからず、ただこの空気から逃げ出したくて、「もうわかったし、これ以上話すことはないから」と、強制的に話を終わらせてしまった。

果たせなかった、私との将来への不安を聞く約束

別れた日の1ヵ月ほど前に、彼から「将来のことが不安だ」とSNSのメッセージ届いたことがあった。
心配になったので、後ほど電話で話を聞く約束をしていたが、仕事の関係で時間をつくることができず、結局そのときに話を聞いてあげることができなかった。
きっとその頃から、私との将来に思い悩み、真剣に考えては苦しんでいたのだろう。

本当はもっと早く気づいて、こんなかたちではなくゆっくり話をするべきだった。
私は心のどこかで、自分から別れを伝えるのが嫌で、彼からの意思表示を待っていたのかもしれない。

もう届かない、別れの日のカフェに忘れてきてしまった言葉

おそらくもう、会うことはない。
伝わるほどの共通の友人もいない。
あの日のカフェで伝えるべきだった“ありがとう”と“ごめんね”は、時が止まったまま、忘れ物として宙に浮いているのだろう。
その記憶にすら薄っぺらい蓋をして、私はいま、彼ではない別の人としあわせな毎日を送っている。

こんな私と付き合ってくれてありがとう。
いつも優しく、思いやりであふれてたあなたに、ちゃんと向き合えていなかったかもしれない。ごめんね。
お別れしたとき、何も伝えず手を振ってしまったこと、後悔というよりも、本当に申し訳なかったと思っている。

こうして文章にしようとしていたら、昨日の夢に出てきたよ。滅多に怒らないタイプだけど、すごく怒ってたね。
どうか素敵な人に巡り合って、しあわせになってください。もしくは既にしあわせでありますように。

ありがとう、ごめんね。
ごめんね、ありがとう。